育成就労と技能実習の違いとは?メリットやデメリットも比較


外国人労働者の受け入れ制度として長年運用されてきた技能実習制度が大きく変わろうとしています。
2024年6月に育成就労制度の創設が閣議決定され、従来の技能実習制度は段階的に廃止される予定です。
しかし、多くの企業が「育成就労と技能実習は何が違うのか」「今から準備しておくべきことは何か」といった疑問を抱いているのではないでしょうか。
本記事では、両制度の具体的な違いやメリット・デメリットを詳しく解説します。
Contents
【表で比較】育成就労と技能実習の違い
育成就労制度は、技能実習制度の課題を解決するために創設される新たな外国人受け入れ制度です。
【表で比較】育成就労と技能実習の違い
項目 | 育成就労制度 | 技能実習制度 |
---|---|---|
制度の目的 | 特定技能への移行を前提とした人材育成・確保 | 開発途上国への技能移転による国際貢献 |
日本語レベル | 入国時:A1相当以上が必須 1年経過時:A2相当以上が必要 | 入国時:原則なし(一部職種でN4程度) |
転籍の制限 | 同一機関での就労:1年以上 やむを得ない事情:1年未満でも可能 | 原則として転籍不可(やむを得ない事情のみ可能) |
対象職種 | 特定技能制度対象の12分野 | 91職種168作業 |
育成期間 | 最長3年間 | 最長5年間(技能実習1号:1年、2号:2年、3号:2年) |
参考:厚生労働省公式ホームページ 技能実習制度 移行対象職種・作業一覧(91職種168作業)
なぜ技能実習制度が廃止されるのか
技能実習制度は「国際貢献」を目的としていたにも関わらず、実質的には労働力確保の手段として活用されてきました。
この目的と実態の乖離により、転籍制限の厳格化や労働条件の問題が生じていました。
また、失踪者数の増加や人権侵害に関する事例の発生など、運用上の課題が深刻化していたため、より実態に即した制度への転換が必要となりました。
参考:出入国在留管理庁公式ホームページ 育成就労制度・特定技能制度Q&A
【表で解説】育成就労のメリット・デメリットとは
育成就労制度は、企業と外国人労働者の双方にとって新たな機会を提供する一方で、いくつかの課題も抱えています。
育成就労のメリット
対象 | メリット |
---|---|
企業側 | ・特定技能への移行前提で長期的な人材育成が可能 ・日本語能力の高い人材の確保が可能 ・人材の定着率の向上 |
外国人労働者側 | ・転籍制限が緩和され、より良い職場環境を選択可能 ・キャリアパスが明確で、特定技能への移行がスムーズ ・日本語学習の支援により、長期的なスキルアップが可能 |
日本語能力の向上に対し力を入れることで、円滑なコミュニケーションが可能です。
また、転籍制限の緩和は、外国人労働者の職業選択の自由にもつながります。
育成就労のデメリット
対象 | デメリット |
---|---|
企業側 | ・日本語学習支援にかかる費用が発生 ・転籍により優秀な人材を失うリスク ・対象職種の限定により、一部業界は利用不可 |
外国人労働者側 | ・入国時の日本語要件により、参加へのハードルが上昇 ・育成期間が3年に短縮 ・定期的な日本語能力向上必要 |
対象職種が制限されることで、在留資格の変更が必要な外国人労働者が出てきます。
また、企業にとっても人材の確保が難しくなる場合があります。
【表で解説】技能実習のメリット・デメリットとは
技能実習制度は長年の運用実績があり、多くの企業が活用してきました。
しかし、制度の課題も明らかになっており、企業は慎重な判断が必要です。
技能実習のメリット
対象 | メリット |
---|---|
企業側 | ・転籍制限により人材の流出リスクが低い ・対象職種が90種類以上あり、幅広い業界で活用が可能 ・最長5年間の長期雇用が可能 ・日本語要件が比較的緩やか |
外国人労働者側 | ・日本語能力に関係なく参加しやすい ・技能習得を通じた国際貢献への参加 ・母国での技能活用機会の提供 |
技能実習は日本語の要件があまりないため、多くの外国人が手軽に参加できます。
また、育成就労制度よりも雇用期間が長いため、企業は人材の確保に割く時間を減らすことが可能です。
技能実習のデメリット
対象 | デメリット |
---|---|
企業側 | ・失踪率の高さによる人材確保の不安定性 ・監理団体との複雑な関係性 |
外国人労働者側 | ・転籍制限による職場選択の自由度の低さ ・特定技能への移行手続きの複雑さ ・キャリアパスの不明確さ |
キャリアパスの不明確さは、外国人の失踪の原因の一つであると考えられています。
外国人労働者の失踪は、外国人は強制退国の可能性に、企業は技能実習の停止につながる可能性があります。
育成就労の注意点
育成就労制度の導入にあたり、企業は以下の点に十分注意を払う必要があります。
企業が負担する費用が高くなる可能性がある
育成就労制度では、外国人労働者の日本語能力の向上が義務化されるため、企業は日本語教育に関する費用負担が必要です。
具体的には、入国時にA1相当、1年経過時にA2相当の日本語能力が求められるため、継続的な語学研修の提供や外部講師の活用が求められます。
また、外国人育成就労機構への各種手続き費用や、より厳格な労働環境整備のためのコストも発生します。
転籍により、優秀な人材が流出するリスクがある
育成就労制度における最大の変更点は、転籍制限の緩和です。
1年経過すると同一業務区分内での転籍が可能となるため、より良い条件を求める優秀な人材が他社に移籍するリスクが高まります。
企業は人材の定着を図るため、労働条件の改善や職場環境の整備、キャリアパスの明示などの取り組みが必要です。
対象職種が技能実習よりも減少するため、この影響を受ける可能性がある
育成就労制度の対象職種は、特定技能制度に対応した12分野に限定されます。これは技能実習制度の91職種168作業と比較して大幅な減少となります。
該当しない業界の企業は、他の外国人雇用制度の活用を検討する必要があります。
まとめ
育成就労制度と技能実習制度の主な違いは、制度の目的、日本語の要件、転籍の自由度、対象職種の範囲などです。
育成就労制度は特定技能への移行を前提とした実用的な制度である一方、企業には新たなコストの負担や人材流出のリスクへの対応が求められます。
2024年秋の臨時国会での法案成立を経て、2025年度中の施行が予定されていますが、詳細な制度運用については今後も新しい情報が追加される可能性があります。
制度の全容を正確に把握し続けることは企業単独では困難なため、外国人雇用に精通した専門エージェントと連携し、最新情報を基にした適切な制度の選択を行うことが重要です。