外国人従業員の社会保険の手続きの方法や必要な書類を解説

日本の少子化に伴い働き手が不足して来ている現代において、外国人労働者の雇用は多くの企業にとって重要な選択肢となっています。
外国人従業員を雇用する際に避けて通れないのが、社会保険の手続きです。
日本の社会保険制度は複雑で、外国人特有の手続きや必要な書類があるため、多くの企業担当者が困惑している現状があります。
適切な手続きを怠ると、行政指導や追徴金のリスクがあるだけでなく、従業員が必要な保障を受けられない事態を招く可能性があります。
本記事では、外国人従業員の社会保険手続きについて、必要な書類から具体的な手順まで、知っておくべきポイントを解説します。
Contents
社会保障制度とは

社会保障制度とは、国民が安心して生活できるよう、病気やけが、失業、老齢などの生活上のリスクに対して、社会全体で支え合う仕組みです。
日本の社会保障制度は、「社会保険」「公的扶助」「社会福祉」「公衆衛生」の4つの柱から構成されています。
この中でも企業が直接関わる制度が社会保険制度であり、健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の4つの保険制度を総称したものです。
これらの制度は、労働者とその家族の生活を守る重要な安全網として機能しており、外国人労働者であっても日本で働く以上、基本的には加入する義務があります。
また、企業は雇用主として、適切な手続きを行う責任を負っています。
労働者に深く関わる社会保険と労働保険

社会保険と労働保険は、日本で働く労働者にとって知っておくべき保険制度です。
健康保険とは
健康保険は、労働者とその家族が病気やけがをした際の医療費の負担を軽減する制度です。
被保険者は医療機関での治療費を原則3割負担で受けられ、残りの7割は健康保険から給付されます。
また、病気やけがで働けない期間には傷病手当金が支給され、出産時には出産育児一時金や出産手当金などの給付も受けられます。
外国人労働者にとっても、日本の高額な医療費を考えると非常に重要な保障制度です。
健康保険証の交付により、全国の医療機関で安心して医療サービスを受けることができ、予防接種や健康診断なども含めた包括的な医療保障を提供しています。
企業は従業員の健康管理に関する義務の一環として、適切な加入手続きを行う必要があります。
厚生年金および国民年金とは
厚生年金保険は、労働者の老後の生活を支える公的年金制度です。
国民年金(基礎年金)に加えて支給される年金制度となっており、現役時代の所得に応じて将来受給できる年金額が決定されます。
外国人労働者の場合、日本に永住しない可能性があるため、脱退一時金制度が設けられています。
また、母国との社会保障協定が締結されている場合は、年金制度の二重加入を防ぐ特例措置があります。
労災保険とは
労災保険は、労働者が業務上に発生した事故または通勤により負傷、疾病、障害、死亡した場合に、労働者やその遺族に対して必要な保険給付を行う制度です。
雇用形態に関係なく、すべての労働者が対象となり、外国人労働者も例外ではありません。
保険料は全額事業主の負担となっており、労働者の負担はありません。
労災保険は事業所単位で加入するため、従業員を雇用した時点で自動的に保険の適用対象になります。
労災保険給付の種類
労災保険給付には複数の種類があり、それぞれ異なる状況に対応しています。
療養給付は治療費の全額給付、休業給付は労働できない期間の所得補償として平均賃金の80%相当額が支給されます。
障害が残った場合の障害給付、介護が必要となった場合の介護給付、死亡時の遺族給付と葬祭料など、包括的な補償制度となっています。
外国人労働者が労災事故に遭った際は、言語の問題や制度の理解不足により適切な給付申請ができない場合があるため、企業側のサポートが重要です。
雇用保険とは
雇用保険は、労働者が失業した際の生活安定と再就職の促進を図るための制度です。
失業給付のほか、教育訓練給付、高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付などの各種給付を行っています。
外国人労働者も一定の要件を満たせば加入の対象となり、失業時には基本手当を受給できます。
ただし、在留資格によっては就労に制限がある場合があり、そのような場合は雇用保険の給付を受けることができません。
企業は外国人従業員の在留資格を正確に把握し、適切な雇用保険の加入手続きを行う必要があります。
外国人従業員は社会保険への加入が必須なのか?

日本で働く外国人労働者は、在留資格や雇用形態に関係なく、基本的には社会保険への加入が必要です。
これは日本人労働者と同様の扱いとなり、外国人であることを理由に加入を免除されることはありません。
健康保険・厚生年金保険の対象者
健康保険と厚生年金保険の加入要件は、以下の4つの条件をすべて満たす場合に適用されます。
週の労働時間が20時間以上である
パートタイムや短時間労働者であっても、週の所定労働時間が20時間以上の場合は加入対象です。
これは、労働契約書や就業規則にもとづいて判断されます。
2か月以上労働予定である
雇用期間が2か月を超える見込みがある場合、または雇用契約が2か月を超えて継続される場合が対象です。
当初2か月以内の契約であっても、実際に2か月を超えて雇用される場合はさかのぼって加入する義務があります。
月給が88,000円以上である
賃金月額が88,000円以上(年収106万円以上)の場合に加入対象です。
この金額には基本給のほか、諸手当も含まれますが、残業代や賞与は除外されます。
学生以外である
学生は原則として加入対象外です。
しかし、休学中の者、夜間・定時制・通信制の学生で常時雇用される者は加入対象となる場合があります。
健康保険・厚生年金保険に必要な手続き

健康保険・厚生年金保険に加入するには、事業主が書類を提出する必要があります。
また、脱退一時金という外国人特有の制度があるため、正しく理解しておきましょう。
健康保険・厚生年金保険の加入に必要な手続き
事業主は必要な書類を提出する前に、外国人の本人確認をする必要があります。
事業主は「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出
外国人従業員を雇用した場合、事業主は雇用開始から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を日本年金機構に提出する必要があります。
この届出には、従業員の基本情報のほか、雇用年月日、報酬の月額、職種などを記載します。
届出が受理されることで、健康保険証が交付され、年金手帳または年金番号通知書が発行されます。
短期在留者の本人確認
在留期間が3か月以下の短期在留者の場合は、通常の本人確認の書類に加えて、旅券の身分事項のページの写し、旅券の資格外活動許可証印のページの写し、資格外活動許可書の写し、就労資格証明書の写しの提出が必要です。
これらの書類により、適法な就労資格を有していることを確認し、不法就労の防止に努めています。
事業主は雇用前にこれらの書類を確認し、コピーを保管しておく必要があります。
脱退一時金を受け取りに必要な手続き
脱退一時金を受け取るためには、書類を準備し提出する必要があります。
必要な書類を準備
外国人が帰国時に脱退一時金を受け取るためには、「脱退一時金請求書」に加えて、パスポートの写し、日本に住所を持たないことを証明する書類の写しなどが必要です。
また、代理人が請求する場合は委任状や代理人の本人確認の書類も必要です。
書類の提出先
脱退一時金の請求書類は、日本年金機構本部または日本国内の共済組合を通じて提出します。
加入していた制度や期間により提出先が変わるため、注意しましょう。
また、日本を出国してから2年以内の外国人のみ申請対象であるため、迅速に対応しましょう。
社会保障協定に注意
日本は現在、ドイツ、アメリカ、ベルギー、イギリスや韓国などの国と社会保障協定を締結しています。
この協定により、本国と日本の年金制度への二重加入を防いだり、保険料の掛け捨てを防止したりすることができます。

この図は、日本と社会保障協定を結んでいる国での年金加入期間がどのように扱われるかを示しています。
図の左側と右側にある「国民年金に加入」と「厚生年金に加入」という部分は、日本で過ごしている期間の年金加入を示しています。
一方、真ん中の「日本の年金制度に加入しない」というグレーの部分は、海外にいる期間を表しています。
この期間は、協定が結ばれているため日本の年金を払う必要がありません。
その代わりに、その下の緑色の部分にあるように、「社会保障協定締結国の年金に加入」し、現地の年金制度に加入する必要があります。
労災保険に必要な手続き

労災保険は事業単位で加入する制度であり、従業員を雇用した時点で自動的に保険の適用を受けます。
そのため、個別の加入手続きは不要です。
労災保険の給付に必要な手続き
労災保険給付の申請手続きは給付の種類によって異なりますが、基本的な流れは共通しています。
まず労働者または事業主が労働基準監督署に給付請求書を提出し、監督署が災害発生時の状況や業務との関連性について調査を行います。
調査が完了すると給付の決定が行われ、労働者に給付金が支払われます。
外国人労働者の場合、請求書の記入に際して通訳や翻訳が必要な場合があり、事業主がサポートすることが重要です。
また、本国への送金を希望する場合の手続きや、帰国後の継続的な治療に関する給付についても事前に確認しておく必要があります。
雇用保険加入に必要な手続き

外国人従業員を雇用した場合、事業主は速やかに書類を提出する必要があります提出しなければなりません。
外国人特有の記入事項もあるため、不備のないように気をつけましょう。
雇用保険被保険者資格取得届をハローワークに提出
外国人従業員を雇用した場合、事業主は雇用開始の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」を管轄のハローワークに提出する必要があります。
この届出により、従業員は雇用保険の被保険者として認定され、将来的に失業給付などの各種給付を受ける権利を取得します。
届出の際は、労働契約書や出勤簿、賃金台帳などの書類も合わせて提出し、雇用実態を明確にする必要があります。
外国人が必要な記入事項
外国人の雇用保険資格取得届には、以下の項目を正確に記入する必要があります。
項目 | 記載例 | 注意点 |
ローマ字氏名 | YAMADA TARO | パスポート記載通りに大文字で記入 |
在留カード番号 | AB1234567CD | 在留カードに記載された番号をそのまま記入 |
在留期間 | 5年 | 在留カードに記載された期間を記入 |
資格外活動の許可の有無 | 有・無 | 該当するものに○をつける |
派遣・請負就労区分 | 1.直接雇用 | 雇用形態に応じて番号を記入 |
国籍・地域 | 韓国 | 在留カードまたはパスポート記載通り |
在留資格 | 技術・人文知識・国際業務 | 在留カードに記載された在留資格 |
ローマ字氏名はパスポートまたは在留カードに記載されている通りに記入し、略称や通称は使用できません。
在留カード番号は12桁の英数字で構成されており、最初の2桁は英字、その次の8桁は数字、最後の2桁は英字となっています。
在留期間については、在留カードに記載された期間をそのまま記入し、無期限の場合は「無期限」と記載します。
資格外活動許可については、留学生や家族滞在者などが就労する場合に必要な許可であり、就労ビザを持つ者は基本的に「無」に分類されます。
派遣・請負就労区分は、直接雇用の場合は「1」、派遣労働者の場合は「2」、請負労働者の場合は「3」を記入します。
国籍・地域については、在留カードに記載された国籍または地域をそのまま記入し、無国籍の場合は「無国籍」と記載します。
雇用保険に加入しない場合
外国人労働者が雇用保険の加入要件を満たさない場合でも、外国人雇用状況届出書の提出が義務付けられています。
この届出は、外国人労働者の適正な雇用管理と不法就労の防止を目的としており、雇用開始時と離職時に提出する必要があります。
届出を怠った場合は30万円以下の罰金が科されることがあるため、確実に手続きを行うことが重要です。
届出書には、外国人労働者の氏名、在留資格や在留期間、国籍、生年月日、性別、住所などの基本情報を記載し、雇用開始日や職種、労働条件なども詳細に記入します。
未加入・遅延手続きのリスク

企業が外国人従業員の社会保険加入手続きを怠った場合、深刻なリスクに直面することがあります。
まず、労働基準監督署や年金事務所からの行政指導が入り、是正勧告書が交付される可能性があります。
この勧告に従わない場合は、より厳しい行政処分が科される恐れがあります。
また、保険料の遡及徴収により、本来支払うべき保険料に加えて延滞金も課せられ、企業の財務負担が大きくなります。
さらに重要な問題は、従業員が必要な保険給付を受けられなくなることです。
労災事故が発生した際に適切な補償が受けられない、病気やけがで休業した際に傷病手当金が支給されない、失業時に基本手当を受給できないなど、労働者の生活に直接的な影響を与えます。
実際に、外国人技能実習生を雇用していた製造業A社では、社会保険の加入手続きを怠っていたことが労働基準監督署の調査により判明しました。
この結果、過去2年間の保険料約500万円と延滞金の支払いを命じられた事例があります。
また、建設業B社では、外国人労働者の労災事故の際に適切な加入手続きが行われていなかったため、治療費の支払いで企業が大きな負担を強いられました。
まとめ

外国人従業員の社会保険手続きは、日本人と基本的に同じ要件で行われますが、在留資格の確認や特有の書類の提出など、外国人特有の手続きが存在します。
手続きの遅延や未加入は、行政指導や追徴金のリスクだけでなく、従業員の生活保障にも直結する重大な問題です。
企業は外国人従業員の雇用にあたり、これらの手続きを確実に実行し、適切な労働環境の整備に努めることが求められています。
不明な点があれば、専門家や関係機関に相談し、適切な手続きを心がけましょう。