日本企業でよく使われる稟議書とは?書き方・必要な場面・例文までわかりやすく解説

日本で働いていると、「稟議書を出してください」と言われて戸惑った経験はありませんか?
稟議書は、会議を開かずに社内の承認を得るための大切な書類ですが、その書き方や使われる場面には、日本独自のルールがあります。
この記事では、稟議の基本から、稟議書が必要な場面、書き方や文例、作成のコツまでをわかりやすく解説します。
ぜひ参考にしてください!
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「稟議書(ringisho)」とは?日本企業で使われる意思決定ツール

日本企業で働くなかで避けて通れないのが「稟議書」の提出です。
聞き慣れない制度かもしれませんが、社内の意思決定を進めるうえで欠かせない役割を担っています。
まずは、稟議とは何か、稟議書がどのように使われるのかをわかりやすく解説していきます。
「稟議」とは?
「稟議(りんぎ)」とは、自分の判断だけでは決められない内容について、上司や関係部署から順に承認を得るプロセスのこと。
文書を使って回覧・確認を進め、組織としての合意を取っていく点が特徴です。
このときに使われるのが「稟議書(ringisho)」。
紙で回覧される場合もあれば、社内のワークフローシステムを使って電子的に処理されるケースも増えています。
ちなみに、「稟」という漢字には「申し立てる」といった意味が込められています。
稟議書はなぜ必要?日本企業での役割とメリット
稟議書のメリットは、関係者全員の承認を会議なしで得られる点にあります。
文書化された提案を順に確認してもらうことで、意思決定にかかる時間と手間をぐっと減らすことが可能です。
また、提案内容を明文化することで、情報の食い違いや伝達ミスを防げるのも大きなメリット。
人事異動が多い日本企業では、部署を移ったばかりの上司でも内容を正確に理解しやすくなります。
稟議書のデメリットとその対策も理解しよう
一方で、稟議書にはデメリットもあります。
たとえば、承認者が複数いることで、責任の所在があいまいになりやすく、問題が起きたときに対応が遅れるケースも。
また、回覧に時間がかかると、意思決定そのものが遅れてしまうこともあります。
このような問題を避けるには、稟議書の内容を簡潔に整理し、事前に関係者と意見交換しておくことがポイントです。
スムーズに承認が得られるよう、読み手の視点を意識して作成しましょう。
稟議書が必要になる場面とは?

稟議書が必要になるのは、大きな契約や予算が関わるときだけではありません。
実際には、日々の業務のなかでもさまざまな場面で使われています。
他の会社と契約を結ぶとき
取引先と新たに契約を結ぶ場合、多くの企業では稟議書の提出が求められます。
特に、長期契約や高額取引となる場合は慎重な判断が必要になるため、見積書を添付したうえで、関連部署の承認を得る流れが一般的です。
内容によっては、法務部門や経理部門などのチェックが必要になることもあります。
経費が発生するとき
大きな金額の支出や予算の変更が発生する場合にも、稟議書が必要です。
たとえば、備品の購入、イベントの開催、業務委託の発注などが該当します。
この場合、支出の目的や見積額に加えて、想定される成果や費用対効果についても記載しておくと、承認が得られやすくなるでしょう。
【稟議書が必要になりやすい経費の例】
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新入社員を採用するとき
採用に関する意思決定も稟議の対象です。
大企業や中堅企業では、配属先の現場責任者だけでなく、人事や経営層からの承認が必要になる場合があります。
稟議書には、候補者のプロフィールや選考経緯、配属予定部署、給与条件などを記載し、社内での人材配置が適切かどうかを確認します。
出張が必要なとき
出張する場合も稟議対象となることがあります。
とくに交通費や宿泊費がかかる場合は、旅程や目的、経費の内訳を明確にする必要があります。
このような稟議では、本人の都合だけでなく、部署全体の業務状況も踏まえて判断されるのが一般的です。
稟議書の作成手順と承認フローは?

稟議書は、提出したら終わりではなく、その後も関係者の承認を順に得ていくステップが続きます。
起案から回覧、最終的な決裁までの流れを把握しましょう。
稟議書は誰が書く?起案から承認までの流れ
稟議書は、現場の担当者が起案し、直属の上司へ提出するのが基本です。
その後、必要に応じて内容を修正し、関係部署や上位者へと順に回覧されます。
近年は、稟議システムを使って電子的に処理されるケースも増えています。
稟議書の回覧順と承認・決裁プロセスの注意点
承認の順番は、社内規定や案件の内容によって異なりますが、一般的には下位の職位から上位の職位へと回覧される流れです。
そして、最終的には決裁権限を持つ上司によって「決裁」されることで、稟議書に記載した内容が実行できるようになります。
承認の途中で誰かが「差し戻し」や「却下」をした場合、その時点で稟議は止まり、修正や再提出が必要になることも。
とくに、記載ミスや説明不足は差し戻しの原因になりやすいため、提出前に内容をしっかり確認しておくことが大切です。
【文例付き】稟議書の基本構成と書き方

稟議書には、決まった構成や書き方があります。
必要な情報がしっかりと整理されていないと、承認を得るのに時間がかかることも。
ここでは、基本項目を確認しつつ、物品購入・契約締結・システム導入・出張といったよくあるケースごとの文例も紹介します。
稟議書の基本的な書き方
稟議書には、次のような基本項目を含めるのが一般的です。
- 案件名
稟議の冒頭に記載する項目です。
「○○システム導入の件」「△△契約締結について」など、ひと目で内容がわかるように簡潔に書くのが基本です。
- 目的・背景・理由
なぜこの稟議が必要なのか、その目的や背景を明確に示しましょう。
「業務効率の改善」「コスト削減」「法令対応」などの目的を具体的に記載すると、説得力が増します。
背景については、現状の課題や対応が求められている理由を具体的に記述することが大切です。
- 申請内容の詳細
実際に何を申請するのかを具体的に記載します。
たとえば、購入であれば製品名・数量・金額、新規取引であれば取引先の概要や契約条件など、案件に応じて必要な情報をしっかり盛り込みましょう。
- 費用・予算と費用対効果
必要な金額とその内訳を明確に示します。
見積書や価格表などを添付するだけでなく、「この対応によって○%の業務時間が短縮できる見込み」など、期待される効果もあわせて記載すると効果的です。
- 想定されるリスクやデメリット
提案にはメリットだけでなく、リスクもあることを前提に。
たとえば「導入初期の運用負荷」や「トラブル発生時の対応」など、あらかじめ記載しておくと信頼感につながります。
あわせて、それらに対する対策も記載しておくとベストです。
- 添付資料
内容を補足する資料も忘れずに添付しましょう。
見積書、契約書案、企画書、スケジュール表、図面などが一般的です。
本文だけでは伝えきれない情報を補足することで、説得力が高まります。
読み手が専門外であることも想定し、わかりやすさと説得力のある構成を意識しましょう。
【ケース別】稟議書の例文
実際にどのように書けばよいのか、ケース別に例文を紹介します。
状況に応じて、社内の様式に沿ってアレンジしてください。
【物品購入の場合】
件名:営業部で使用するタブレットの購入について 2025年4月15日 第一営業部 山田一郎 下記のとおり、営業部で使用するタブレットを購入したく、お伺いいたします。 背景・理由 営業提案時の資料を紙で持ち歩いていたが、業務負担の軽減とプレゼン精度の向上を目的に、タブレット端末の導入を検討中。資料準備や印刷コスト削減の効果も見込まれる。 購入内容 対象製品名:○×社製タブレット○○型 価格:1台48,000円 × 8台=384,000円(営業部員全員分) 費用対効果
使用開始希望日 2025年6月1日 添付資料
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【契約締結の場合】
件名:株式会社△△との新規取引開始について 2025年4月20日 第一営業部 山田一郎 下記のとおり、新たに株式会社△△との取引を開始したく、お伺いいたします。 背景・理由 当社の〇〇県進出に向け、同県で認知度の高い△△社との提携により販路拡大を図る。 新規取引先概要 取引先名:株式会社△△ 資本金:10億円/設立:1956年/社員数:800名/業種:卸売業 費用対効果 独自調査で〇〇県民の約30%が△△社を利用していることが判明。当社商品の認知度向上とシェア拡大が期待される。 取引条件 開始希望日:2025年6月1日 初回取引額:◯◯万円 支払方法:末締め翌月末払い |
【システム導入の場合】
件名:経費精算システム導入の件 2025年4月5日 経理部 佐藤健太 下記のとおり、経理業務の効率化を目的に、経費精算システムを導入したく、お伺いいたします。 背景・理由 現在、経費精算はExcelと紙ベースでの処理を行っており、申請から承認、集計までに多くの手作業と時間がかかっています。ミスや遅れが発生しやすく、業務負荷の軽減が課題となっています。 導入内容 システム名:△△クラウド経費精算システム 導入形態:クラウド(SaaS)型 初期費用:200,000円 月額費用:50,000円(ユーザー数50名分) 費用対効果
使用開始希望日 2025年6月1日 添付資料
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【出張の場合】
【出張の場合】 件名:〇〇県の市場調査に伴う第一営業部職員2名の出張について 2025年3月10日 第一営業部 山田一郎 下記のとおり、現地調査に伴う出張をいたしたく、お伺いいたします。 背景・理由 売上が伸び悩む現状を受け、新たな販路として〇〇県進出を検討中。現地ニーズの調査と取引候補企業との面談を行う。 期間・出張者・訪問先 期間:2024年3月20日〜25日 出張者:第一営業部 ◆◆、◇◇ 訪問予定先:株式会社△△ 他(別紙参照) 費用対効果
出張費用概算 6万円(別紙参照) 添付資料
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これらの例を参考に、自社のルールやフォーマットに合わせて調整してください。
稟議書のテンプレートはこちらから
稟議書を書くときに気をつけたい5つのポイント

稟議書の内容は、ただ正確に記載すれば良いわけではありません。
読み手にとって理解しやすく、納得しやすい形でまとめることが大切です。
知らない人にも伝わる表現を心がける
稟議書の読み手は、必ずしもその案件の専門知識を持っているとは限りません。
専門用語や略語の多用は避け、できるだけ簡単な表現を使いましょう。
どうしても専門用語を使う場合は、注釈を添えると親切です。
また、業界内では通じる言い回しでも、他部署の人には伝わらないこともあります。
読み手が理解しやすい文章を意識することで、承認までの流れもスムーズになります。
金額・費用はあいまいにしない
稟議書で扱う金額は、できるだけ正確に記載しましょう。
「数十万円程度」「そこそこのコストがかかる」といった表現では、判断の材料として不十分です。
可能であれば、見積書などの添付資料を基に、明確な金額や内訳を示してください。
たとえば「初期費用:20万円/月額費用:5万円(見積書添付)」のように、数値で示すことが信頼感にもつながります。
情報は簡潔かつ具体的に書く
稟議書は読みやすさも重要です。
だらだらと長く書くよりも、ポイントを絞って端的に伝えるほうが、内容の理解度は高まります。
たとえば、目的や効果は箇条書きにする、表や図を活用するなど、視覚的に整理された構成を心がけましょう。
詳細な内容は添付資料に任せて、本文では要点だけを押さえるのも有効です。
リスクやデメリットも明記する
どんな提案にも、リスクや懸念点はつきものです。
それらをあえて書かずに進めてしまうと、かえって疑念を招くことも。事前に考えられるデメリットを提示し、それに対する対応策まで示しておくと、読み手も安心して判断できます。
一方で、リスクばかりを強調しすぎると、提案そのものが消極的に見えてしまうこともあるため、費用対効果を記載するなど、メリットとのバランスにも注意しましょう。
添付資料で説得力を高める
本文で伝えきれない情報は、添付資料で補完します。
見積書、契約書案、企画書、図面、スケジュール表など、案件に応じた適切な資料を添えることで、稟議書全体の信頼性が高まります。
資料は多ければよいというものではありません。
必要な情報を過不足なく、適切な順序で添付することがポイントです。
まとめ
稟議書は、日本企業で意思決定を行う際に欠かせないツールです。
構成や書き方のポイントを押さえておけば、難しくはありません。
読み手の立場を意識して情報を整理し、必要な資料を添えて提出することで、承認も得やすくなります。
ぜひ今回紹介した内容を参考にしながら、自信を持って稟議書を作成してみてください!