インドネシア人の仕事観とは?日本企業が知るべき働き方の特徴と一緒に働くときのポイント
日本で働くインドネシア人が急増しています。厚生労働省が公表した「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)によると、日本国内で就労するインドネシア人労働者は169,539人に達し、前年比で約48,000人の増加、増加率は39.5%と極めて高い水準を記録しました。背景には少子高齢化による人手不足の深刻化と、特定技能制度の拡充があります。
製造業や介護、建設業、飲食料品製造業など幅広い産業でインドネシア人材の存在感が高まるなか、「一緒に働くにはどうすればよいのか」「仕事に対する考え方が日本人とどう違うのか」といった疑問を持つ企業担当者は少なくありません。文化的背景や宗教上の価値観を理解しないまま受け入れると、現場の混乱や早期離職を招くリスクがあります。
本記事では、インドネシア人の仕事観や働き方の特徴を多角的に解説し、日本の職場で円滑に協働するための実践的なポイントを紹介します。採用担当者や現場管理者が社内説明に活用できるよう、公的データや現地の文化的背景をもとにまとめました。
Contents
インドネシアの基本情報と日本での就労が増えている理由

インドネシア人材の採用を検討するうえで、まずはインドネシアという国の全体像と、なぜこれほど多くのインドネシア人が日本での就労を選んでいるのかを把握しておくことが重要です。国の特徴を知ることで、彼らの仕事観や行動の背景がより深く理解できるようになります。
インドネシアの基礎情報
インドネシアは東南アジアに位置する世界最大の群島国家で、約18,000の島々で構成されています。人口は約2億8,000万人と世界第4位の規模を誇り、総人口の約5割が30歳未満という若い国です。約300の民族が暮らす多民族国家であり、公用語はインドネシア語、国民の約87%がイスラム教を信仰しています。経済面ではASEAN最大のGDPを有し、近年はデジタル経済やスタートアップ分野でも成長が著しい国です。
インドネシア人が日本で働く大きな動機の一つは、両国間の賃金格差にあります。インドネシアの平均年収は日本円で約38万円程度とされ、日本の平均給与との間には約12倍の開きがあります。日本で特定技能として働けば母国の3〜4倍の月収を得られるため、家族への仕送りや将来の資金形成に直結します。加えて、日本の製造業や介護分野で高度な技術を学べることがキャリア面でのメリットとなっており、帰国後の就職や起業にも活かせると考えるインドネシア人は多いです。
日本側の受け入れ体制も急速に整備されています。特定技能在留外国人のうち、インドネシア人はベトナム人に次いで第2位の規模です。インドネシア政府も海外就労を積極的に促進しており、今後5年で25万人のインドネシア人労働者を日本に送り出す目標を掲げています。日本語学習者数も世界第2位の約71万人を擁し、送り出し前の訓練で日本語能力試験N4相当のカリキュラムが導入されるなど、制度面での連携が強化されている状況です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人口 | 約2億8,000万人(世界第4位) |
| 平均年齢 | 約29歳 |
| 主な宗教 | イスラム教(約87%) |
| 日本での就労者数 | 169,539人(令和6年10月末) |
| 前年比増加率 | 39.5% |
| 平均年収(インドネシア国内) | 約38万円 |
こうした背景を踏まえると、インドネシア人材の日本への流入は一時的なものではなく、構造的・制度的に今後も拡大が見込まれる長期トレンドであることがわかります。
インドネシア人の仕事観の特徴 ── 日本人との違いの理解
インドネシア人と日本人の仕事観には、根本的な価値観の違いがあります。この違いを「良い・悪い」で判断するのではなく、文化的背景から理解することが、円滑な職場運営の第一歩です。ここでは、日本の企業担当者がとくに知っておくべきインドネシア人の仕事に対する考え方を整理します。
仕事は「生活の手段」であり最優先事項ではない
インドネシア人の多くにとって、仕事の位置づけは「家族を養い、生活を支えるための手段」です。日本で見られるような「仕事が人生の中心」という考え方とは異なり、家族やコミュニティとの時間、宗教的な活動を優先する傾向があります。そのため、長時間労働や家庭を犠牲にする働き方には否定的な人が多く、定時になれば帰宅するのが一般的です。日本の「サービス残業」のような概念はほぼ存在せず、残業を依頼する場合は正当な理由と適切な報酬が不可欠となります。この価値観は「怠けている」のではなく、インドネシア社会全体に根付いた家族第一の文化に基づくものです。
仕事とプライベートの境界があいまい
日本人は出社時間を厳守し、業務時間と休憩時間をきっちり分ける傾向がありますが、インドネシア人は仕事中にも同僚とおしゃべりをしたり、私用の電話に応じたりすることがあります。プライベートで問題が起きると、それが仕事のパフォーマンスに影響するケースも珍しくありません。逆に言えば、職場での人間関係が良好であればモチベーションが大きく向上するという特徴でもあり、アットホームな雰囲気づくりが彼らの力を引き出す鍵になります。
転職に対する抵抗感が低い
インドネシアには「クトゥ・ロンチャット(Kutu Loncat)」という転職を繰り返す働き方を指す言葉があるほど、転職文化が根付いています。20代で2〜3回の転職は一般的で、30歳ごろに自分の専門性を定め、40歳前後で落ち着くというキャリア観が広く浸透しています。
企業への帰属意識は日本ほど強くなく、より良い待遇やキャリアアップの機会があれば迷わず転職する人も多いです。日本の企業がインドネシア人材を長期的に定着させるには、明確なキャリアパスの提示やスキルアップの機会提供が欠かせません。
指示されたことは忠実にこなすが自発的な行動は少ない
インドネシアの教育文化では、上司や年長者の指示に従うことが重視されます。「アサル・バパ・スナン(Asal Bapak Senang)」、すなわち「上司が喜ぶように行動する」という考え方が根付いているため、指示された業務は忠実に遂行します。一方で、自分の担当業務が終われば積極的に他の仕事を探すことは少なく、また質問することに慣れていない人も多いです。教育過程で「質問する」機会が限られていたことに加え、忙しそうな上司に声をかけることへの遠慮も背景にあります。定期的な声かけや進捗確認の仕組みを設けることが有効です。
宗教への理解と職場で必要な配慮
インドネシア人材を受け入れるうえで避けて通れないのが、宗教に関する理解と配慮です。国民の約87%がイスラム教徒(ムスリム)であるインドネシアでは、宗教が日常生活のあらゆる場面に影響を与えています。ただし、戒律の厳格さには個人差があるため、一律に決めつけず本人に確認する姿勢が大切です。
1日5回の礼拝(サラー)への対応
ムスリムにとって、1日5回の決まった時間に行う礼拝は信仰の柱の一つです。おおよその時間帯は以下のとおりです。
| 礼拝名 | 時間帯(目安) | 就業時間との関係 |
|---|---|---|
| ファジュル | 早朝4:30頃 | 始業前 |
| ズフル | 正午12:00頃 | 昼休み中に対応可 |
| アスル | 午後15:30頃 | 就業時間中に重なる |
| マグリブ | 夕方18:00頃 | 終業前後 |
| イシャー | 夜19:00頃 | 終業後 |
就業時間中に重なるのは主にアスルの時間帯ですが、1回の礼拝は数分〜10分程度で完了します。空いている会議室や静かなスペースを礼拝場所として開放するだけで対応可能であり、業務への影響は最小限です。なお、人によっては休憩時間にまとめて礼拝したり、終業後にまとめて行ったりするケースもあるため、入社前の面接段階で本人の希望を確認しておくことを推奨します。
ラマダン(断食月)中のマネジメント
毎年約1か月間続くラマダン期間中は、日の出から日没まで飲食を断ちます。とくに午後の時間帯は体力や集中力が低下しやすいため、業務配分に配慮が必要です。具体的には、重労働や高負荷な作業は午前中に割り当てる、昼食を取らない分の休憩時間を仮眠に充てられるよう調整する、夏場は脱水症状や熱中症のリスクに注意する、といった工夫が有効です。ラマダン終了後の「レバラン(断食明け大祭)」は家族と過ごす最も大切な祝日であるため、この時期の帰省や長期休暇の希望には柔軟に対応することが定着率向上につながります。
ハラール食への配慮
イスラム法で許可された食品(ハラール食)以外は口にできないのがムスリムの基本的な食事規律です。豚肉やアルコールは禁忌とされ、豚由来の成分(ゼラチン、ラードなど)が含まれる加工食品にも注意が必要です。社員食堂がある企業では、ハラール対応メニューの用意や、調理器具を分けるといった対応が求められます。弁当持参を認めるだけでも大きな安心感につながるため、必ずしも大がかりな設備投資が必要というわけではありません。
インドネシア人の性格的な特徴と強み
仕事観に加えて、インドネシア人に多く見られる性格的な特徴を理解しておくことも、現場でのコミュニケーションを円滑にするうえで役立ちます。もちろん個人差はありますが、文化的背景から共通して見られる傾向を知っておくことで、不要な摩擦を避けることができます。
穏やかで協調性が高い
インドネシアには「ゴトン・ロヨン(Gotong Royong)」と呼ばれる相互扶助の精神が根付いており、コミュニティ内で助け合うことが美徳とされています。この文化は職場でも発揮され、チームワークを重視し、仲間と協力して業務に取り組む姿勢が見られます。対人関係を大切にするため、初対面の相手ともすぐに打ち解けることが多く、職場の雰囲気づくりにポジティブな影響を与える存在になります。
一方で、穏やかな性格ゆえに人前で叱られることに慣れていない人が多い点には注意が必要です。大勢の前で厳しく指導すると、自尊心が傷つき、モチベーションの低下や突然の離職につながるリスクがあります。注意や指導は別室で1対1で行い、なぜその行動が問題なのかを根拠を示して丁寧に説明するのが効果的です。
「ティダ・アパアパ」の楽観的な姿勢
インドネシアには「ティダ・アパアパ(Tidak apa-apa)」、つまり「大丈夫、問題ない」という表現が日常的に使われます。これは困難に対しても前向きに受け止める楽観性を象徴しており、ストレスを溜めにくい長所がある反面、業務上の問題を軽視してしまうリスクもはらんでいます。報告・連絡・相談の文化を根付かせるためには、「問題を報告すること自体は悪いことではない」というメッセージを繰り返し伝え、心理的安全性の高い環境を整えることが重要です。
「できます」と答えてしまう親切心
インドネシア人は相手の気分を害さないよう、頼まれごとを断りにくい傾向があります。実際にはできないことでも笑顔で「大丈夫です」「わかりました」と返答してしまうケースは少なくありません。これは悪意ではなく、相手への配慮から来る行動です。業務を依頼する際には、本当に理解しているか具体的に確認する、途中経過を細かくチェックするといったフォロー体制を構築することで、手戻りやトラブルを防げます。
インドネシア人と一緒に働くときのポイント ── 現場で使える実践ガイド
ここまで解説してきた仕事観や性格的特徴を踏まえ、実際に日本の職場でインドネシア人と協働する際に押さえておきたい具体的なポイントを紹介します。受け入れ企業が事前に体制を整えておくことで、現場の混乱を防ぎ、インドネシア人材の力を最大限に引き出すことが可能です。
コミュニケーションの工夫
インドネシア人は日本語能力試験N4〜N3レベルで来日することが一般的です。日常会話は可能でも、敬語や専門用語、方言は理解しにくい場合があります。業務指示は平易な日本語で簡潔に伝え、重要な事項は口頭だけでなく文書やイラストを併用すると効果的です。「わかりましたか?」という質問には反射的に「はい」と答えてしまうことがあるため、「今の説明を自分の言葉で教えてください」のように確認方法を工夫しましょう。
また、インドネシアには年功序列を重んじる文化があり、上司への敬意は非常に強いです。ただし、それは上司の指示に表面的に従うだけで、内心では不満を感じていても言い出せないケースにもつながります。定期的な1対1の面談を設け、仕事上の困りごとやキャリアの希望を聞く場を確保することが、信頼関係の構築と早期離職の防止に役立ちます。
生活支援と受け入れ環境の整備
インドネシア人材が日本で安心して働くためには、就労環境だけでなく生活面でのサポートも重要です。住居の確保、銀行口座の開設、携帯電話の契約、行政手続きなど、来日直後に直面する課題は多岐にわたります。とくに地方都市ではハラール食品の入手が難しいケースもあり、近隣のハラール対応店舗やオンラインショップの情報を提供するだけでも大きな助けになります。
叱り方と褒め方のバランス
前述のとおり、インドネシア人は人前で叱責されることに強い抵抗を感じます。ミスがあった場合は感情的にならず、何が問題だったのかを事実ベースで冷静に伝えることが大切です。反対に、良い仕事をした際には積極的に褒めましょう。とくにチームの前で成果を認められることはモチベーション向上に直結します。
同時に、インドネシアの職場文化ではポジティブな環境が周囲に波及しやすいという特性があります。ネガティブな空気が蔓延すると一気に職場全体の士気が下がるリスクがあるため、日頃から明るく声をかけ合う雰囲気づくりを意識することが効果的です。
文化的タブーへの配慮
インドネシアの文化的背景から、以下の行為はタブーとされています。現場で無意識にやってしまいがちなことも含まれるため、受け入れ前の社内研修で共有しておくことを推奨します。
| タブー | 理由 |
|---|---|
| 頭を触る | 頭は「魂が宿る神聖な場所」とされており、親しみを込めた行為でも不快に感じる |
| 左手で物を渡す | 左手は「不浄の手」とされるため、物の受け渡しや握手は右手で行うのがマナー |
| 人前での叱責 | 自尊心を深く傷つけ、信頼関係の崩壊や離職につながるリスクが高い |
| 宗教や信仰を軽視する発言 | 宗教は生活の根幹であり、冗談であっても侮辱と受け取られる |
こうしたタブーは日本人にとって馴染みのないものですが、事前に知っておくだけで不要なトラブルを防ぐことができます。
定着率を高めるために企業ができること
インドネシア人材の採用で最も重要な課題の一つが、いかに長期的に定着してもらうかです。せっかく育成した人材が短期間で離職してしまっては、採用コストや教育コストが無駄になります。ここでは、定着率向上のために企業が取り組むべき施策を紹介します。
まず、給与や待遇の透明性が欠かせません。インドネシア人は入社前に給与額、ボーナスの有無と回数、残業の扱いなどを明確に知りたいと考えています。曖昧なまま入社させると不信感につながり、より良い条件を求めて転職するきっかけになります。雇用契約書はインドネシア語に翻訳し、双方が内容を十分に理解したうえで締結することが望ましいです。
次に、キャリアパスの明確化です。インドネシアでは新卒採用の文化がなく、チャンスがあればすぐに働き始める一方で、キャリアアップの機会がなければ見切りをつけて転職するという傾向があります。企業側は、昇進の条件やスキルアップのための研修制度を明示し、「この会社で働き続ける意味」を実感できる仕組みを作ることが重要です。
さらに、コミュニティづくりも有効な施策です。インドネシア人は人とのつながりを非常に重視するため、同じ国籍の仲間がいる環境は安心感を生みます。社内で定期的な交流イベントを開催したり、先輩インドネシア人従業員をメンター役に据えたりすることで、孤立を防ぎ、職場への帰属意識を高めることができます。
よくある質問(FAQ)
Q. インドネシア人は時間にルーズだと聞きますが、日本の職場でも遅刻が多いですか?
インドネシアでは時間に対する感覚が日本ほど厳格ではありません。しかし、日本の企業で働くインドネシア人の多くは、事前の教育や就労経験を通じて日本式の時間管理を理解しています。入社時のオリエンテーションで就業規則を明確に説明し、時間を守ることの重要性を丁寧に伝えることで、大きな問題にはなりにくいです。
Q. 礼拝のために業務が中断されると生産性に影響しませんか?
就業時間中に重なる礼拝は1〜2回程度で、1回あたり数分〜10分で完了します。喫煙休憩と同程度の時間であり、適切にスケジュールを調整すれば業務への影響はほとんどありません。むしろ、礼拝への配慮が「この会社は自分の信仰を尊重してくれる」という安心感につながり、モチベーションや定着率の向上に寄与します。
Q. ラマダン中の断食は業務に支障が出ませんか?
個人差はありますが、午前中は通常どおりのパフォーマンスを発揮できるケースが多いです。午後に体力が低下しやすくなるため、高負荷の作業は午前中に集中させるなどの配慮が有効です。断食期間は約1か月間であり、本人と事前に相談して業務配分を調整しておくと円滑に乗り越えられます。
Q. インドネシア人は「できる」と言ったのに実際はできないことがあるのですが?
これはインドネシアの文化的な特性で、相手の気分を害さないために断れない場合があります。悪意ではなく親切心から来る行動であるため、「できますか?」ではなく「この作業の手順を説明してもらえますか?」と具体的に確認することで、本当の理解度を把握できます。
Q. インドネシア人が突然退職するのを防ぐにはどうすればよいですか?
インドネシア人はキャリアアップの機会がないと感じると早期に見切りをつける傾向があります。定期的な面談で本人のキャリア希望を聞き、スキルアップの機会や昇進の道筋を具体的に示すことが最も効果的な対策です。また、給与や待遇に不満がある場合も離職理由の上位に挙がるため、入社前に条件を明示し、透明性のある人事制度を運用することが重要です。
Q. 食事の配慮はどの程度必要ですか?
ムスリムのインドネシア人にとって、豚肉とアルコールは禁忌です。社員食堂がある場合はハラール対応メニューの提供が理想的ですが、弁当持参を認めるだけでも十分な配慮になります。会食や歓迎会でのレストラン選びの際にも、ハラール対応の店舗を選ぶか、事前に本人へ確認することでトラブルを防止できます。