育成就労制度とは?技能実習制度との違い・導入時期・企業が押さえるべきポイントを解説

高齢者の様子

日本で深刻化する人手不足、とくに介護・建設・製造業といった現場では、外国人材の存在が欠かせないものとなっています。

その解決策として、2027年に新たに導入されるのが「育成就労制度」。

これは、技能実習制度の課題を見直し、外国人材の保護とキャリア形成を重視した仕組みです。

この記事では、制度の概要から技能実習制度との違い、対象分野や受け入れ方法、企業が準備すべき体制までを詳しく解説します。

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Contents

育成就労制度とは?目的と背景を解説

育成就労制度は、外国人材が日本で安心して働きながら成長できるように設計された新しい制度です。

まずは、制度が生まれた背景や目的、施行までの流れを見ていきましょう。

育成就労制度が創設された背景

育成就労制度は、これまでの技能実習制度で指摘されてきた課題を踏まえ、新たに設計された制度です。

現場での実践的な技能習得と、外国人本人のキャリア形成の両立を目指しています。

従来の技能実習制度は「国際貢献(技能移転)」を目的としながらも、実際には人手不足を補う手段として運用されてきた面がありました。

低賃金や長時間労働といった問題、不十分な監理体制などにより、実習生の人権侵害が国内外で大きく問題視されてきた経緯があります。

こうした背景から、2023年に法務省・厚生労働省・外務省が合同で設置した有識者会議が制度の見直しを提言。

その結果、技能実習制度を段階的に廃止し、「育成就労制度」へ移行する方針が決まりました。

育成就労制度の目的と基本方針

育成就労制度の基本方針は、「人材育成」と「適正な就労」を両立させることです。

厚生労働省によると、制度の目的は以下の通り:

  • 外国人が日本の職場で技能を習得し、キャリアを形成できるよう支援すること
  • 受け入れ企業が適正な労働環境を提供し、長期的に人材を育成すること
  • 日本社会の一員として外国人が安心して働ける環境を整備すること

単なる「労働力の補填」ではなく、人材育成を通じた持続可能な共生社会の実現が大きな目的です。

制度開始はいつから?施行スケジュールと今後の流れ

制度は2027年4月の本格施行を予定しています。

2024年〜2026年にかけて法案の整備と試行運用が進められ、技能実習からの円滑な移行が進む見込みです。

既存の技能実習生についても、一定の条件を満たす場合は「育成就労」へ移行できる仕組みが検討されています。

企業としては、早い段階から制度理解と受け入れ体制の整備を進めておくことが重要です。

育成就労制度と技能実習制度の違い

制度の目的や在留資格、移行ルートなどが大きく変わる点が「育成就労制度」の特徴です。

ここでは、企業が特に押さえるべき違いを紹介します。

制度の目的と仕組みの違い

技能実習制度は「開発途上国への技能移転」を名目としていましたが、育成就労制度は「外国人本人のキャリア形成支援」を目的にしています。

つまり、従来の“送り出す国の発展”から、“働く本人の成長”へと主軸が移ります。

この変更により、雇用契約や処遇、転籍(職場変更)の柔軟性などが改善される見込みです。

就労期間・在留資格の違い

技能実習制度では最長5年の在留が可能でしたが、育成就労制度では「段階的に在留資格を取得し、最長で10年程度就労できる仕組み」も検討されています。

これにより、優秀な外国人材を長期的に確保しやすくなります。

また、在留資格の名称も「技能実習」から「育成就労」に変更され、特定技能1号・2号へのスムーズな移行ルートも整備される予定です。

移行ルートとキャリア形成の違い

これまでの技能実習→特定技能という二段階構造は、育成就労制度によって整理されます。

一定の技能を修得した人材は、試験を経て特定技能1号へ移行できるほか、受け入れ企業が直接支援する仕組みも強化されます。

制度として「長期的なキャリアパス」を描けるようになる点は、企業にとっても大きなメリットです。

育成就労のデメリット・課題点

一方で、育成就労制度には新たな課題もあります。

たとえば、制度の詳細がまだ固まっていないため、運用初期に混乱が生じる可能性があること、また監理支援機関の責任範囲が拡大することによるコスト増も懸念されています。

「監理団体任せにせず、企業側が制度理解を深めておくこと」が成功の鍵となるでしょう。

【一覧あり】育成就労制度の対象となる産業分野

育成就労制度は、技能実習制度で人手不足が顕著だった分野を中心に展開されます。

どの業種が対象となるのか、企業の採用活動に直結するポイントを確認しておきましょう。

育成就労制度の対象分野一覧

育成就労制度の対象分野は、現行の特定技能制度と同じ16分野です。

育成就労制度の分野主な業務内容特定技能との関係
介護入浴・食事・排せつ介助など、利用者の心身の状況に応じた支援特定技能「介護」分野に移行
ビルクリーニング建築物内部の清掃特定技能「ビルクリーニング」分野に移行
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業鋳造・鍛造・機械加工・電気機器組立てなど(旧製造3分野を統合)特定技能「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」分野に移行
建設型枠施工、左官、鉄筋施工、内装仕上げなど特定技能「建設」分野に移行
造船・舶用工業溶接、塗装、鉄工、電気機器組立てなど特定技能「造船・舶用工業」分野に移行
自動車整備自動車の点検・整備・分解整備特定技能「自動車整備」分野に移行
航空地上支援(グランドハンドリング)、整備、貨物取扱いなど特定技能「航空」分野に移行
宿泊フロント、接客、レストランサービスなどの宿泊業務特定技能「宿泊」分野に移行
農業栽培管理、収穫、畜産などの耕種・畜産業務特定技能「農業」分野に移行
漁業漁具の操作・修繕、水産動植物の採取や養殖特定技能「漁業」分野に移行
飲食料品製造業食品の製造・加工・品質管理特定技能「飲食料品製造業」分野に移行
外食業飲食物の調理、接客、店舗運営特定技能「外食業」分野に移行
自動車運送業バス・タクシー・トラック等の運転業務特定技能「自動車運送業」分野に移行
鉄道軌道・電気設備の保守、車両整備、運転士・車掌業務など特定技能「鉄道」分野に移行
林業育林、素材生産などの森林整備・保全業務特定技能「林業」分野に移行
木材産業製材、木製品製造などの木材加工特定技能「木材産業」分野に移行

なかでも介護分野は、育成就労制度の中心的な対象業種のひとつ。

高齢化が進む日本では、安定した介護人材の育成と定着が制度導入の大きな目的とされています。

育成就労制度における在留資格と就労期間の仕組み

育成就労制度では、外国人材のキャリア形成を見据えて、段階的に在留資格を取得できるように設計されています。

ここでは、在留資格の区分や就労期間、特定技能への移行条件を解説します。

在留資格の分類と就労可能期間

育成就労では、在留資格の段階ごとに就労内容と期間が区分される予定です。

たとえば「育成就労1号」では基本業務を中心とした実践学習、「育成就労2号」ではより高度な技能習得を目指す形が想定されています。

在留期間は最長5年〜10年程度が想定され、特定技能制度との接続により長期的な人材確保が可能になります。

特定技能1号・2号への移行条件

技能実習と異なり、育成就労から特定技能への移行は「明確な評価基準」に基づいて行われます。

日本語能力試験(JLPT)や技能評価試験の合格などが条件となり、本人の努力と企業の支援がともに求められます。

企業としては、育成段階から特定技能へのキャリア支援を意識した教育計画を立てることが重要です。

■ 育成就労制度における受け入れ企業の要件は?

育成就労制度を活用するには、受け入れ企業にも一定の条件と責任が課せられます。

ここでは、採用前に確認しておきたい要件と準備ポイントを整理します。

企業が満たすべき要件

受け入れ企業は、安定した経営基盤を持ち、適切な雇用契約を締結できることが前提です。

また、育成就労生1人につき1人以上の指導員(介護分野であれば介護福祉士など)の配置が求められ、就労環境の整備・安全教育・日本語サポートの提供など、多岐にわたる義務があります。

制度の目的が「育成」である以上、単なる労働力として扱うことは認められません。

団体監理型・企業単独型の違いと選び方

技能実習制度と同様、育成就労制度にも「団体監理型」と「企業単独型」が存在します。

団体監理型は、監理団体が間に入り、送り出し機関や実習生との調整・サポートを行う方式です。

一方の企業単独型は、海外の現地法人や提携先企業の職員を直接受け入れる形式で、大企業に多い傾向があります。

介護など人材不足が深刻な分野では、ほとんどが団体監理型で運用されていますが、どしらを選ぶにせよ、信頼できる監理支援機関を選定することが重要です。

育成就労生の受け入れから就労までの流れ

外国人を採用してから実際に就労を開始するまでには、いくつものステップがあります。

制度に沿った手続きを理解し、スムーズに受け入れを進めることで、トラブルを防ぎやすくなります。

候補者募集〜面接・選考

育成就労生の受け入れでは、まず送り出し機関を通じて候補者を募集します。

送り出し機関は、外国人の母国で人材を発掘・教育・推薦する役割を担っており、日本の監理支援機関と連携して候補者情報を共有します。

その後、企業側が現地またはオンラインで面接を行い、適性や日本語能力、志望動機を確認します。

面接では、就労目的だけでなく「将来的にどんなキャリアを築きたいか」まで把握しておくと、入社後の定着率が高まります。

在留資格認定証明書の申請・雇用契約の締結

面接で採用が決まったら、「在留資格認定証明書交付申請」を出入国在留管理庁へ提出します。

あわせて雇用契約を締結し、労働条件・給与・勤務時間などを明文化します。

この段階で注意すべきなのが「母国語による契約内容の説明」です。

日本語だけでなく、候補者が理解できる言語で条件を説明することで、後のトラブルを防止できます。

入国後の講習・オリエンテーション

入国後は、1か月程度の講習期間が設けられます。

日本語教育のほか、生活ルールや防災・安全教育、文化理解など、生活面でのサポートを行います。

介護や建設などの現場では、専門用語や安全確認の手順を事前に教えておくと、現場への定着がスムーズになります。

実習開始後の監理・報告体制

就労が始まった後も、監理支援機関による定期的な巡回や面談が行われます。

外国人労働者が適切な環境で働けているか、職場で問題が起きていないかを確認する重要な工程です。

企業側も、労働時間や残業実績、賃金支払いなどを適正に管理し、必要に応じて報告します。

この「監理・報告体制」は制度の根幹を支える要素であり、信頼できる支援機関との連携が欠かせません。

育成就労における定着支援とキャリア形成のポイント

育成就労制度は、外国人が単に働くだけでなく、「学びながらキャリアを築く」ことを目指しています。

企業としても、教育と支援の両面からサポートする姿勢が求められます。

日本語教育・職場内研修の重要性

言語の壁は、職場定着を妨げる大きな要因。

定着率の高い企業ほど日本語教育への投資が積極的であり、現場内でのコミュニケーションも円滑です。

OJT(職場内訓練)とあわせて、簡単な会話・業務用語を定期的に学べる仕組みを導入すると効果的。

また、既存社員が日本語教育をサポートする「バディ制度」を設ける企業も増えています。

生活支援・相談体制の整備

外国人社員が安心して働くためには、職場以外のサポートも欠かせません。

住居の確保、生活オリエンテーション、健康相談など、支援項目を事前に明確にしておくと良いでしょう。

特に介護や宿泊業では、24時間勤務や夜勤など生活リズムの乱れもあるため、生活相談窓口を設けておくことが望ましいです。

特定技能へのスムーズな移行支援

育成就労を修了した外国人が特定技能1号・2号へ移行する際には、試験対策や手続き支援が必要です。

企業が積極的に支援することで、再雇用や長期的な雇用維持にもつながります。

例えば、試験費用を補助したり、社内研修を受験対策に組み込んだりといった取り組みが効果的です。

育成就労制度を導入するメリットとリスク管理

制度導入には多くの利点がありますが、同時に注意点も存在します。

ここでは、企業が実務上押さえておくべきポイントを整理します。

育成就労制度の導入メリット

育成就労制度を導入することで、企業の長期的な人材戦略や社会的信頼の向上につながります。

  1. 長期的な人材確保が可能
    最長10年の就労を見込めるため、慢性的な人手不足の解消に寄与します。
  2. 国際貢献とブランド価値向上
    教育を通じた国際協力として企業の社会的評価が高まります。
  3. 外国人社員のスキル向上と現場力強化
    体系的な教育により、現場の品質やチーム力が向上します。

よくある課題と対策

一方で、外国人材の受け入れには文化・言語・制度理解など、慎重な対応が求められる点も。

以下のような課題を事前に把握し、対策を講じておくと良いでしょう。

  • 言語・文化の違いによる誤解
    → 定期的な面談・通訳サポートを設ける
  • 長時間労働・不適切な指導
    → 労働時間・安全基準の社内チェックリスト化
  • コミュニケーション不足
    → 異文化理解研修・メンター制度の導入

制度運用上のコンプライアンス

育成就労制度では、外国人の権利保護を徹底するため、労働基準法や入管法の遵守が求められます。

また、監理支援機関との契約内容を明確にし、監督責任を曖昧にしないことが重要です。

不適正な運用が発覚した場合、監理支援機関だけでなく受け入れ企業も行政処分の対象となる可能性があります。

今後の制度改革と企業が取るべき対応

育成就労制度は、今後も社会情勢や産業ニーズに応じて柔軟に見直されていくと考えられます。

法改正前後の動きを追いながら、企業として取るべき対応を整理しておきましょう。

制度見直し・今後のスケジュール

厚生労働省の発表によれば、2024年度内に法案が国会へ提出され、2027年度の施行を目指すとしています。

技能実習制度の新規受け入れは段階的に縮小され、既存の実習生は条件を満たす場合に育成就労へ移行可能です。

企業が今から準備しておくべきこと

育成就労制度の施行に向けては、制度理解だけでなく、社内体制の見直しと環境整備が欠かせません。

特に監理支援機関や教育体制の整備など、今のうちから取り組むことで、導入後のトラブルを防ぐことができます。

  1. 監理支援機関の見直し・選定
    信頼できるパートナーを早期に選び、制度移行に対応できる体制を構築。
  2. 社内教育体制の整備
    日本語研修・OJT・安全衛生教育など、受け入れ環境を明確化。
  3. 契約・就業規則の確認
    外国人特有の労働契約・在留資格管理に関する項目を追加しておく。

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育成就労制度の導入や外国人材の採用に不安がある場合は、登録支援機関であるGTN(グローバルトラストネットワークス)のサポートを活用するのもおすすめです。

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まとめ

育成就労制度は、技能実習制度の課題を解消し、外国人材が日本で「働きながら成長する」ための新たな仕組みです。

人手不足の解消だけでなく、企業にとっては長期的な人材育成・国際的な信頼構築にもつながります。

制度の施行に向けて、企業が今できることは――

  • 制度の内容を正しく理解すること
  • 支援体制を整備し、適正な労働環境を提供すること
  • 外国人材の成長をサポートし、共に発展する姿勢を持つこと

この3点を意識することです。

早めの準備とパートナー選びを進め、次世代の外国人雇用戦略を描いていきましょう。

参考:育成就労制度の概要|厚生労働省

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