外国人技能実習生「介護」を受け入れるには?介護固有の要件も解説
近年、介護施設等での外国人介護士の姿を目にする機会が増えてきました。しかし、これまではEPAという経済連携協定でしか外国人の介護職における就労は許可されていませんでしたが、2017年より本格的に就労が認められるようになり、介護業界にとって外国人材の受入れはまだ新しい取組みといえるでしょう。
日本の高齢化が急速に進む中、介護現場の人手不足は深刻な問題となっており、外国人材の力を借りることは重要な選択肢の一つとなっています。
今回は、そのような介護職の在留資格の中でも「技能実習制度」について、分かりやすく解説します。外国人技能実習生の受入れを検討している介護事業者の方にとって有益な情報となるはずです。ぜひ最後までご覧ください。
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深刻な介護人材の不足と外国人材の受け入れ状況
ご承知のとおり日本は、2007年に超高齢社会(65歳以上の人口の割合が全人口の21%を占める)へ突入し、高齢化は加速の一途をたどっています。それに伴い、介護のニーズが急激に高まっているのです。
2025年時点の介護人材不足は約34万人と推測
2025年問題といわれますが、これはベビーブームの団塊世代が一気に後期高齢者(75歳以上)となり、国内の後期高齢者数が2,180万人に上ると言われる危機です。そのような中、多くの介護施設等の開業が進みましたが、それを担う職員の確保ができず運営に支障をきたし経営危機に陥るという問題も少なくありません。
2018年の厚生労働省の試算では、2025年時点の介護人材不足は約34万人と推測されております。さらに、2023年の経済産業省のデータによると、2050年には高齢化率が37%を超え、2040年の要介護者数は約1,000万人に上ると予測されており、約280万人の介護人材が必要になると試算されています。
このように、日本の高齢化はさらに加速し、それに伴う介護ニーズの増大と人材不足は今後ますます深刻化すると予測されています。団塊の世代が後期高齢者となる2025年だけでなく、2040年、2050年に向けても介護業界には多くの課題が山積しているのが現状です。
介護人材の確保と定着は喫緊の課題であり、外国人材の活用はその解決策の一つとして大きな注目を集めています。
参考:経済産業省における 介護分野の取組について|経済産業省
介護職の外国人材受け入れのための法改正
この流れを受け、外国人材の受け入れを促進するための法改正が行われました。
「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律」(入管法)が2016年に制定され、2017年から施行されました。
また同年、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(外国人技能実習法)も施行されています。
更に、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」(入管法)が2018年に制定され、2019年に施行されました。
これらの法改正により、以下のような変化がありました。
- 在留資格の「介護」の創設
- 技能実習の職種に「介護」が追加
- 在留資格「特定技能1号」の創設
上記のように、介護職に従事する外国人材の道が拓かれるようになったことは、介護業界にとって大きな変化といえるでしょう。
【参考】
介護職における在留資格(就労ビザ)の種類
現在の介護職での在留資格を整理すると,
以下のとおりです。
- 在留資格「介護」:2017年から開始。国家資格である「介護福祉士」の資格を有する者に許可される在留資格で、永続的な就労が可能。
- 技能実習:2017年から開始。本国への技能移転を目的とし介護施設等で実習を行う。在留期間は最長で5年間。基本的な日本語を理解する能力を必要とする。
- 特定技能1号:人手不足対応として2019年から開始。介護の知識の評価として技能試験と日本語能力試験への合格者が対象となる。通算5年の就労が可能。
- EPA(経済連携協定):現在は、ベトナム、フィリピン、インドネシアの3か国から受入れを実施。「特定活動」の資格を与えられ、介護福祉士候補者として介護施設等での就労、研修を行いながら介護福祉士を目指す。
このように、外国人介護人材の受け入れ制度は複数存在しており、それぞれ特徴があります。事業者や外国人材自身のニーズに合わせて、適切な在留資格を選択することが重要です。
なお、在留資格「介護」についての詳細は「在留資格「介護」とは|在留期間や取得法、他の在留資格との違いは?」の記事で、特定技能の詳細・受け入れ要件については「特定技能「介護」とは?受け入れ施設の要件や人数枠も詳しく解説」の記事で詳しく解説していますので、ぜひ合わせてチェックしてみてください。
技能実習制度とは?
この深刻な介護業界での人手不足の中、日本の介護の技術の高さを評価し、日本で介護を学ぼうとする外国人は増えています。そこで、技能実習制度の目的、趣旨とともに制度の特徴を見て行きましょう。
技能実習制度の目的
技能実習制度は、日本の優れた技能、技術又は知識を開発途上地域等に移転することを目的としています。つまり、日本で培われたこれらの技能等を習得した技能実習生が、帰国後に母国の経済発展を担う人材となることを期待した制度です。
この制度は、国際協力の推進という観点から、開発途上地域等の将来を担う「人づくり」に寄与することを大きな目的の一つとしています。日本の優れた技能を伝授することで、送り出し国の産業発展に資することが期待されているのです。一方で、介護の技能実習生を通じて、日本の介護現場の人手不足の解消にもつながるという側面もあります。
技能実習制度のメリット
そして現在は、コロナウィルスの影響で特例となっておりますが、原則、技能実習制度には転職という考えはありません。また技能移転という、これから技能を身に付けようとする人材のための制度ですので、その職業に於ける技術試験等の実施なく来日できます。
このことは、受入側としては、比較的候補者を集めやすく、一定期間の安定した雇用契約の中での人材育成ができるといえます。外国人材を一から育成するには時間とコストがかかりますが、技能実習制度を活用することで効率的に人材を確保できるのです。
更に、技能実習2号までの3年間を良好に修了できれば、今度は特定技能1号への移行も可能となりますので、合計8年間の人材の定着が見込めることになります。長期的な人材育成と定着という点でも、技能実習制度は介護事業者にとって大きなメリットがあるといえるでしょう。
技能実習制度の問題と対策
しかし、これまでの技能実習制度の実態としては、労働力需給調整の手段として用いられ、実習生への賃金の不払いや人権侵害等様々な問題がありました。
外国人技能実習生は日本語や日本の習慣に不慣れな場合も多く、労働環境の改善を求めにくい立場にあります。そのような状況を悪用するケースが後を絶たなかったのです。
そこで、これらを是正し適正な実施とするため、2017年「外国人技能実習法」の施行と、同年「外国人技能実習機構」が設立され、実習実施者や監理団体への体制強化が図られるようになりました。
不正行為を行った機関に対しては、改善命令や許可取り消し等の措置がとられるようになり、制度の適正化が進んでいます。技能実習生の保護と、実習先の監督は今後ますます重要になってくるでしょう。
ここからは、以上に留意しつつ技能実習制度の仕組みについて見ていきます。
技能実習制度の仕組みについて
技能実習制度の仕組みについて、さらに詳しく見ていきましょう。
受け入れ方法は、団体監理型と企業単独型の2種類
技能実習制度は、団体監理型と企業単独型の2種類がありますが、97%が団体監理型で実施されています。企業単独型とは大手企業が海外の現地法人や取引先企業の職員を直接受け入れるものですが、介護に用いられることは殆どないと言えるでしょう。
団体監理型は、認可を受けた事業協同組合等の団体によるものです。技能実習生を受け入れ、企業、施設等への斡旋や実習中の指導、支援を行います。
受け入れまでの流れは、実習実施者(企業、施設等)が監理団体へ申し込みを行い、監理団体は送り出し機関(外国)に依頼をかけ候補者を選考します。その後現地にて面接を行い、実習実施者と合意が得られれば、技能実習生との間で雇用契約を結び実習開始となります。
監理団体には実習実施者と実習生双方への監督責任があり、適正な実習が行われるようサポートすることが求められます。送り出し機関との連携も重要になってきます。
入国から帰国までと技能実習の区分
介護の技能実習生は、技能実習1号(1年目)として来日し、約1か月間の座学による講習を行った後、雇用契約のもと実習を通して技能等の修得をしていきます。
そして、1年目が修了するまでに「技能実習評価試験」を受ける必要があり、認められると技能実習2号(2、3年目)へ移行し、技能等に習熟するための活動を続けられます。在留期間も更新されます。
技能実習では3号に移行する前に1ヶ月以上帰国する必要があるので、ここで終了とする場合が多いですが、更に「技能実習評価試験」の受験とともに、監理団体及び実習実施者が一定の条件を満たし優良と認められる実績により、技能実習3号(4、5年目)に移行することもできます。
このように、技能実習制度では最長5年間の在留が可能となります。長期的な人材育成という観点からも意義深い制度といえるでしょう。
技能実習制度「介護」の固有要件
そして、介護における技能実習制度には、介護サービスの特性や安全面等に配慮したいくつかの具体的な要件があります。
1. コミュニケーション能力の確保
技能実習生は、入国時には「N4」程度が要件であり、2年目からは「N3」程度が要件とされています。これは、日常的な場面で使われる日本語をある程度理解し、介護の業務を適切に行うために必要です。
2. 適切な実習実施者の対象範囲の設定
介護が現に行われている事業所を対象とし、訪問系サービスは対象外とされています。これは、技能実習生の人権擁護と適切な在留管理を確保するためです。
3. 適切な実習体制の確保
経営が安定している事業所が対象となり、受入れ人数枠は事業所単位で設定されます。技能実習指導員は、技能実習生5名につき1名以上が必要で、そのうち1名以上は介護福祉士等である必要があります。
4. 監理団体による監理の徹底
技能実習生が適切な環境で技能を学び、人権が守られることを保証するために監理団体による監理の徹底は非常に重要です。
監理団体の役割や技能実習制度における監理の重要性について詳しく知りたい方は、ぜひ以下の関連記事もご一読ください。
▶︎ 技能実習制度の監理団体とは? 技能実習における役割を解説
以上のように、介護の技能実習制度には固有の要件が設けられています。これらの要件を満たした上で、技能実習計画を作成し、適切に運用していくことが求められるのです。
尚、技能実習生は、配属後7ヶ月目から人員配置基準に換算することが可能です。人材確保の点からも有効に活用できる制度といえるでしょう。
参考:技能実習「介護」における固有要件について|厚生労働省 社会・援護局
技能実習生の受け入れをするには?
技能実習生の受け入れは、以下の表に示すように一定の手順を踏んで進められます。
段階 | 内容 |
---|---|
1. 候補者の募集 | 実習実施者(介護施設等)が送り出し機関に技能実習生の候補者募集を依頼 |
2. 候補者の選考 | 応募者の中から、面接や適性試験の結果を参考に選考 |
3. 面接の実施 | 通常は送り出し機関の現地で面接を実施(オンラインでの面接も可能) |
4. 雇用条件の合意 | 面接で双方の合意が得られたら、雇用条件等について協議 |
5. 各種手続きの実施 | 在留資格認定証明書の交付申請、雇用条件書の作成、実習計画の策定等 |
6. 生活サポート体制の整備 | 住居の確保、生活オリエンテーション、日本語学習の機会提供等 |
7. 実習の開始 | 技能実習生の入国後、実習を開始 |
8. 実習の監理 | 監理団体と連携し、適正な実習の実施と技能実習生の保護に努める |
技能実習生の受け入れには一定の手順と準備が必要ですが、各段階で実習実施者と送り出し機関、そして技能実習生との間で綿密なコミュニケーションを取ることが肝要です。特に面接では、技能実習生本人の意思や目的を確認し、雇用条件等について双方の合意形成を図ることが重要です。
受け入れ側には、適切な受け入れ体制を整え、技能実習生が安心して実習に専念できる環境を用意することが求められます。監理団体と連携しながら、適正な技能実習の実施と技能実習生の保護に努めていきましょう。
まとめ
技能実習制度は、日本の優れた技能を開発途上国等に移転することを目的とした国際貢献の制度です。介護分野においては、深刻な人材不足の解消にも一定の効果が期待されています。
介護人材の確保は待ったなしの課題であり、外国人材の活用はその有力な解決策の一つとなるでしょう。一方で、技能実習生の人権擁護と適正な労働環境の確保は絶対に守るべき大原則です。
技能実習制度を有効に活用しつつ、外国人材との共生を図っていくことが重要だと思われます。
なお、外国人を雇用する際には、ビザの取得から各種手続きまで、様々な準備が必要です。採用担当者の方は、以下の記事を参考に、スムーズに手続きを進めていきましょう。
[外国人労働者の募集~採用に必要な準備と手続きを詳しく解説]