ベトナム人が日本で働く理由とは?ベトナム人の特徴やベトナム人増加の背景も解説

近年、日本の労働現場でベトナム人労働者の姿を目にする機会が急速に増えています。
コンビニエンスストアから飲食店、製造業の現場まで、さまざまな職種でベトナム人が活躍しており、日本の人手不足の解消に重要な役割を果たしています。
しかし、なぜ多くのベトナム人が日本で働くことを選んでいるのでしょうか。
企業がベトナム人材を活かし、長期的な雇用関係を築くためには、彼らが日本で働く背景や価値観を理解することが重要です。
本記事では、ベトナム人の国民性や特徴、日本で働く理由、技能実習生が多い背景、そして職場選びの基準まで、企業の人事担当者が知っておくべき情報を解説します。
ベトナム人の特徴

ベトナムは親日国として知られています。
家族思いであることが大きな特徴で、家族のために日本で働いているベトナム人も少なくありません。
ベトナムとはどのような国か
ベトナムは、東南アジアに位置する人口約1億人の社会主義共和国です。
首都はハノイで、最大の都市はホーチミン市です。
地理的には中国と国境を接し、歴史的にも中国の影響を強く受けてきました。
しかし、ベトナム戦争後のアメリカとの関係の改善、そして日本との経済協力の深化により、現在では多様な国際関係を築いています。
宗教的には仏教徒が多数を占めますが、儒教的な価値観も根強く残っており、これが国民性にも大きな影響を与えています。
経済発展が著しい一方で、農村部と都市部の格差は依然として大きく、多くの若者が出稼ぎや海外での就労を希望する背景となっています。
平均月収は都市部で約4万円前後と、日本との経済格差は依然として大きい状況です。
家族思い
ベトナム人の特徴の一つが、非常に強い家族愛と家族への責任感です。
これは儒教文化に根ざした価値観で、特に親孝行は最も重要な美徳とされています。
多くのベトナム人労働者が日本で働く最大の動機も、家族への仕送りにあります。
また、ベトナムでは拡大家族制が一般的で、祖父母、両親、子ども、時には叔父叔母までが同じ屋根の下で暮らすことも珍しくありません。
このような環境で育った彼らは、集団の調和を重視し、チームワークを大切にする傾向があります。
職場においても、同僚との協調性を重視し、組織の目標達成に向けて協力的に働くことが期待できます。
真面目で勤勉
ベトナム人労働者の勤勉さは、多くの日本企業から高く評価されています。
これは単に長時間働くということではなく、与えられた仕事に対する責任感の強さと継続的な努力を惜しまない姿勢を指します。
教育への投資を重視するベトナムの文化的背景も、この勤勉さに影響しています。
多くの家庭では、子どもの教育のために家計をやりくりしており、学習に対する強い動機付けを行いながら育てます。
この学習意欲は成人になっても続き、日本語の習得や技術の向上に対しても積極的に取り組む傾向があります。
また、ベトナムの歴史的背景も勤勉さの形成に関係しています。
長期間にわたる戦争や経済的な困難を乗り越えてきた経験から、困難に立ち向かう精神力と忍耐力を身につけています。
これが職場での粘り強さや、困難な状況でも前向きに努力を続ける姿勢として評価されています。
キャリアアップ志向が高い
ベトナム人労働者は、高いキャリアアップ志向を持っています。
これは単に経済的な向上を求めるだけでなく、専門技術の習得や社会的地位の向上を目指す総合的な成長意欲です。
多くのベトナム人労働者は、日本での就労を通じて先進的な技術やノウハウを学び、将来的にベトナムでの起業や管理職への昇進を目指しています。
また、語学学習への意欲も旺盛で、日本語の習得を積極的に進めるだけでなく、英語などの第三言語の学習にも取り組む者が多くいます。
これは国際的なキャリアを視野に入れた戦略的な学習姿勢の表れです。
このキャリアアップ志向は、将来的なリーダー候補としての期待も持てるため、長期的な人材育成の観点からも価値の高い人材といえます。
ベトナム人が日本で働く理由

前述の通り、ベトナムの平均月収は日本と大きな差があります。
また、治安や環境も日本の方が整っており、これらの理由から日本で働くベトナム人も多くなっています。
ベトナムは親日国だから
ベトナムは世界でも有数の親日国として知られており、この親近感が多くのベトナム人を日本での就労に向かわせる重要な要因となっています。
この親日感情の背景には、戦後の日本によるベトナムへの継続的な経済協力があります。
ODA(政府開発援助)を通じたインフラ整備や技術の移転、教育の支援などにより、日本はベトナムの発展に大きく貢献してきました。
ハノイやホーチミン市の主要なインフラには日本の支援によるものが多く、一般のベトナム人にとって日本は「信頼できるパートナー」という印象を持たれています。
また、日本の製品やサービスに対する信頼も高く、品質の高さや技術力への憧れも親日感情を支えています。
多くのベトナム人にとって日本は「学ぶべき先進国」であり、そこで働くことは単なる出稼ぎを超えた意味を持っています。
このような文化的・心理的な親近感は、言語や習慣の違いを乗り越えて日本社会に適応しようとする強い動機になっています。
日本の方が給料が良いから
経済的な理由は、ベトナム人が日本で働く大きな動機の一つです。
日本とベトナムの賃金格差は非常に大きく、日本の最低賃金でもベトナムの平均的な給与の3~5倍程度に値します。
具体的には、ベトナムの都市部での平均月収が約4万円程度であるのに対し、日本の技能実習生は月収15~20万円程度を得ることが可能です。
これは単純計算でも3~4倍の収入となり、家族への仕送りを考慮すると、経済的なインパクトは計り知れません。
さらに重要なのは、この収入格差が単なる生活水準の向上だけでなく、家族の将来への投資を可能にすることです。
子どもの教育費、両親の医療費、住宅の建設費用など、ベトナムでは困難な大きな支出を賄うことができます。
日本の方が治安や環境が良いから
日本の安全性と生活環境の質の高さも、ベトナム人が日本での就労を選ぶ理由の一つです。
日本は世界でも上位に位置する治安の良い国として知られており、夜間でも安心して外出できる社会環境は、多くのベトナム人にとって魅力的です。
ベトナムの都市部では、経済発展に伴って交通事情や大気汚染が深刻な問題となっています。
ハノイやホーチミン市では、バイクによる交通渋滞や排気ガスによる大気汚染が日常的な問題であり、特に健康への影響を心配する人々にとって、日本の清潔で整備された環境は大きな魅力です。
また、日本の社会保障制度や医療制度の充実も重要な要因です。
労災保険や健康保険などの制度により、万が一の事故や病気の際にも適切な治療を受けることができます。
先進国である日本で技術を学びたいから
多くのベトナム人労働者、特に技能実習生にとって、日本での就労は技術や知識を習得する貴重な学習機会と捉えられています。
日本の「ものづくり」文化や品質管理の概念、チームワークを重視した労働文化などは、帰国後のキャリア形成において大きなアドバンテージです。
実際に、日本での技能実習を終えて帰国したベトナム人の多くが、習得した技術や経験を活かして起業したり、管理職として活躍したりしています。
また、日本語能力の向上も重要な目標の一つです。
経済のグローバル化が進む中で、日本語ができることは大きな競争優位性です。
日本企業のベトナム進出が増加している現在、日本語ができるベトナム人の需要は高く、帰国後の就職や昇進において有利になることが期待されています。
なぜベトナム人労働者が多いのか

ベトナム人の技能実習生が多い背景には、技能実習生や留学生の増加があります。
技能実習生の増加
日本の技能実習制度において、ベトナム人の割合は年々増加しており、現在では全技能実習生の約50%を占めています。
この背景には、制度的な要因と両国の経済状況が複合的に作用しています。
技能実習制度は1993年に創設され、当初は中国人実習生が多数を占めていました。
しかし、中国の経済成長に伴う賃金の上昇により、中国人の日本への出稼ぎの需要は減少傾向にあります。
一方、ベトナムは依然として発展途上国であり、日本との賃金格差が大きいため、技能実習制度への参加のニーズが高まっています。
また、ベトナム政府も海外派遣労働者政策を積極的に推進しています。
このため、送り出し機関の整備や労働者の事前研修制度の充実など、制度面でのサポートも充実しています。
ベトナム人留学生の増加
技能実習生以外にも、留学生として来日するベトナム人もかなりのスピードで増加しています。
日本学生支援機構の統計によると、ベトナム人留学生数は令和5年から令和6年にかけて約4,000人増加しています。
参考:独立行政法人日本学生支援機構(JASSO) 2024(令和6)年度 外国人留学生在籍状況調査結果
この増加の背景には、ベトナム人の中間所得層の拡大があります。
ベトナム人の経済成長により、子どもの海外留学を経済的に支援できる家庭が増加しています。
特に日本の高等教育への関心が高まっています。
また、日本政府の留学生30万人計画も、ベトナム人留学生の増加を後押ししています。
留学生の多くは、学業と並行してアルバイトを行っており、卒業後は日本での就職を希望するケースが多くなっています。
就労可能な在留資格を保持するベトナム人の増加
2019年に創設された特定技能制度も、ベトナム人労働者の増加に大きく寄与しています。
この制度により、技能実習を修了したベトナム人が引き続き日本で働くことが可能になり、より長期間の滞在が実現しています。
特定技能制度では、技能実習での経験を活かして、より専門性の高い業務に従事することができます。
これにより、ベトナム人労働者のキャリアパスが明確になり、日本での長期的な就労への意欲が高まっています。
さらに、日本語能力や技能レベルの向上により、技術・人文知識・国際業務といった他の在留資格での就労も増加しています。
これにより、ベトナム人労働者の多様化が進み、単純労働だけでなく、専門的・技術的分野での活躍も期待されています。
データで見るベトナム人労働者の現状

ベトナム人労働者数は、在留外国人の中で中国に次ぐ第2位となっています。
特に、技能実習や特定技能の在留資格を持つベトナム人が多いです。
在留外国人に占めるベトナム人の割合
日本における在留外国人数の動向を見ると、ベトナム人の存在感の大きさが明確に表れています。
2024年末時点での在留外国人数は約376万人となり、国・地域別では中国が約87万人、ベトナムが約63万人という構成になっています。
この数値が示すように、ベトナムは中国に次ぐ第2位の在留外国人数を誇っており、全体に占める割合は約16.8%に達しています。
特に注目すべきは、ベトナムの前年からの増加人数が約7万5千人であることです。
ここから、ベトナム人の占める割合が大きいだけでなく、現在も急速に拡大し続けていることが分かります。
ベトナム人の在留資格別の構成比

※数値引用:出入国在留管理庁 令和6年末現在における在留外国人数について
ベトナム人の在留資格別構成を詳しく分析すると、ベトナムは技能実習、特定技能、技術・人文知識・国際業務が多い状況となっています。
技能実習が最も多い約21万人(約33.5%)を占めていることは、ベトナム人労働者の多くが制度的な枠組みを通じて日本に来ていることを示しています。
特定技能の約13万人(約21.0%)は、技能実習制度から移行した人材が多く含まれており、より専門的で長期的な就労への移行が進んでいることを表しています。
この制度での在留者数の増加は、日本での継続的な就労を希望するベトナム人の多さを物語っています。
留学生も約4万人在留しており、これらの多くが将来的に就労資格への変更を目指していると考えられます。
このように、ベトナム人の在留資格の構成は就労を中心とした多様なパターンを示しており、日本の労働市場における重要な位置を占めていることが分かります。
直近10年の増加推移
ベトナム人在留者数の過去10年間の推移を見てみましょう。
年度 | 在留ベトナム人数 |
2014年末 | 約10万人 |
2016年末 | 約20万人 |
2018年末 | 約33万人 |
2020年末 | 約45万人 |
2022年末 | 約50万人 |
2024年末 | 約63万人 |
※数値引用:出入国在留管理庁 令和6年末現在における在留外国人数について
この推移データから読み取れるのは、2014年から2018年にかけての急激な増加期と、2020年前後のコロナ禍による一時的な伸び率の鈍化、そして2022年以降の回復と再加速です。
特に2016年から2018年にかけての増加は、技能実習制度の拡充と留学生増加の政策の効果が表れた時期と重なります。
2020年から2022年にかけての伸び率の鈍化は、新型コロナウイルス感染症の影響による入国制限が主な要因でした。
しかし、2023年以降は入国制限の緩和とともに再び高い成長率を示しており、2024年末時点では力強い回復を見せています。
ベトナム人が職を選ぶ際に着目するポイント

ベトナム人が日本で働くにあたり、日本語の学習支援の有無や給与や福利厚生の充実度、研修体制が整っているかどうかが重要になってきます。
日本語の学習支援がある
ベトナム人労働者が職場を選ぶ際に重視するポイントの一つが、日本語学習への支援体制です。
言語能力の向上は、単に職場でのコミュニケーションを円滑にするだけでなく、将来のキャリア形成にとって重要な要素です。
多くのベトナム人労働者は、日本語能力の向上により、より良い職場への転職や昇進の機会を得たいと考えています。
このため、勤務時間内外での日本語研修の実施、日本語検定受験料の補助、日本語学習教材の提供などの支援がある企業を高く評価します。
また、日本語の学習支援は、企業に対する信頼感や帰属意識の向上にもつながります。
会社が自分の将来を真剣に考えてくれているという実感は、長期的な勤務への意欲を高める重要な要因です。
給与や福利厚生が充実している
経済的な理由で来日するベトナム人労働者にとって、給与水準と福利厚生の充実度は職場選択の最重要要因です。
基本給だけでなく、残業代の支給、各種手当の充実、賞与の有無などを総合的に評価します。
特に重要なのは、給与の透明性と確実性です。
労働条件通知書に記載された給与が確実に支払われること、残業代が適正に計算されることなどは、信頼できる職場かどうかを判断する重要な指標です。
労働条件の透明性が重視されるようになっており、正確な給与支給や公正な処遇を求める傾向が強まっています。
福利厚生については、健康保険や厚生年金などの法定福利厚生はもちろん、住宅補助、食事補助などの法定外の福利厚生も重視されます。
研修制度や昇給制度が明確にある
ベトナム人労働者にとって、明確な研修制度と昇給制度の存在も職場選択の基準です。
単に現在の作業を継続するだけでなく、技能の向上や責任の拡大により、より良い処遇を受けられる可能性があることを求めています。
研修制度については、入社時のオリエンテーションから始まり、段階的な技能習得プログラム、安全教育、品質管理研修など、体系的な内容が評価されます。
また、研修の成果が適切に評価され、昇級や昇給に反映される仕組みがあることも重要です。
昇給制度の明確性も重要な要素です。
勤続年数や技能レベル、業績などの評価基準が明確に示され、公正な評価が行われることへの期待があります。
丁寧な指導により技術が習得できる環境である
技術習得へ強い意欲を持つベトナム人労働者にとって、職場での指導の質も重要な要素です。
単に作業手順を教えるだけでなく、技術の原理や理論、品質管理の考え方なども含めた包括的な指導を求めています。
指導方法についても、言語の壁を考慮した工夫が求められています。
図解や実演を多用した指導、母語での補足説明、段階的な習得プログラムなど、理解しやすい方法での技術伝承が評価されます。
これにより、短期間で効率的に技術を習得し、より高度な業務に携わることが可能です。
まとめ

ベトナム人労働者は、家族思いで勤勉、そして高いキャリアアップ志向を持つ特徴的な人材です。
親日感情と経済的な動機、さらには技術習得への強い意欲を持って日本での就労を選択しています。
現在、ベトナムは日本の在留外国人の中で中国に次ぐ第2位の人数規模を誇り、技能実習制度や特定技能制度、留学制度を通じて着実に増加しています。
ベトナム人材が職場を選ぶ際に重視するのは、日本語学習支援の充実、適正な給与・福利厚生、明確なキャリア制度、そして丁寧な技術指導の環境。
企業がベトナム人労働者を効果的に活用するためには、彼らの文化的背景と価値観を深く理解し、適切な受け入れ体制を整備することが必要です。
日本語習得の支援、キャリア開発の機会の提供、家族への配慮などを含む包括的なサポート体制を構築することで、優秀なベトナム人人材の確保と長期的な雇用ができます。
これらの取り組みは、日本の労働力不足の解決と産業競争力の向上に大きく貢献することでしょう。