特定技能の自社支援でコスト削減!登録・入管申請から運用まで

特定技能の自社支援は、コスト削減と柔軟な運用を実現します。

本記事では、自社支援を行うための要件確認から入管申請、運用までを網羅的に解説し、貴社の外国人材受け入れを支援します。

特定技能の自社支援とは?メリット・デメリットを徹底解説

特定技能の自社支援とは、企業が登録支援機関に委託せず、自社で特定技能1号外国人の生活・就労支援を行うことです。

コスト削減や柔軟な運用がメリットですが、専門知識の習得や支援体制構築、行政手続きの負担増がデメリットとなります。

特定技能「自社支援」の基本的な概念と仕組み

特定技能制度(特に特定技能1号)では、外国人が日本での生活や就労を円滑に行えるよう、受入れ企業に対して「支援計画」の策定と「支援」の実施が義務付けられています。

この「支援」を、外部の登録支援機関に委託せず、受入れ企業自身(特定技能所属機関)が直接行うことを一般的に「自社支援」と呼びます。

外国人材が日本で働く上で必要とされる支援活動は多岐にわたります。

具体的には、空港への送迎、住居の確保、生活オリエンテーションの実施、日本語学習機会の提供、相談や苦情への対応、そしてやむを得ない場合の転職支援などが含まれます。

これらの支援を通じて、特定技能外国人が日本で安心して働き、生活できる環境を整備することが、受入れ企業に課せられた重要な役割です。

特定技能制度は、国内の人手不足が深刻な産業分野において、即戦力となる外国人材を受け入れるために創設されました。

その中で自社支援が認められているのは、企業が外国人材と直接向き合い、個々のニーズに応じたきめ細やかなサポートを提供することで、外国人材の日本社会への適応や職場への定着を促進することを目的としています。

自社で支援を行う場合、企業は「支援責任者」および「支援担当者」を選任し、外国人材の受入れから雇用期間全体にわたる「支援計画」を策定・実施するための体制を構築する必要があります。

支援責任者等は、外国人材の活動状況を定期的に確認し、生活面や就労面で困りごとがあれば速やかに対応することが求められます。

単に法的な手続きを行うだけでなく、外国人材が日本社会に溶け込み、長期的にその能力を最大限に発揮できるよう、継続的なサポートを提供することが、企業の重要な役割となります。

自社支援の主なメリット:コスト削減と運用の柔軟性

特定技能の自社支援は、登録支援機関への委託費用を大幅に削減できる点が最大のメリットです。

外国人材一人あたり月額数万円程度の委託費用を削減し、受入れコストを抑制することで、企業の経営資源をより有効に活用できます。

さらに、自社支援は以下の多岐にわたるメリットをもたらします。

  • 企業裁量の増大と柔軟な支援
    登録支援機関に委託する際の画一的な支援とは異なり、企業自身の裁量で支援計画を策定・実施できます。
    これにより、外国人材個々の状況や企業の具体的なニーズに合わせた、きめ細やかな支援が可能になります。
    例えば、特定の業務に必要な日本語能力の向上に特化した学習機会の提供や、企業文化への早期適応を促す独自の研修導入など、自社の実情に合わせた最適な支援を展開できます。
  • エンゲージメントと定着率の向上
    外国人材の管理や支援を直接行うことで、企業文化への適応が促進され、エンゲージメント向上に繋がります。
    日常的なコミュニケーションや直接的なサポートは、外国人材が企業の一員としての意識を強く持ち、安心感を得ることに貢献します。
    担当者が生活面や精神面のケアを直接行うことで信頼関係が構築され、職場への定着率向上も期待できます。
  • 組織力強化と企業価値向上
    長期的な視点で見ると、自社で支援体制を構築し運用することは、企業の組織力強化と企業価値向上に大きく寄与します。
    外国人材の受入れを通じて、社内に多様性を受け入れる文化が育まれ、国際的な視点を持つ人材が育成されます。
    また、支援ノウハウが社内に蓄積されることで、将来的な外国人材の更なる活用や、新たな事業展開への足がかりとなる可能性を秘めています。
    これは単なるコスト削減に留まらず、企業の持続的な成長に資する戦略的な投資と言えるでしょう。

自社支援のデメリットと注意すべき点

特定技能の自社支援は、コスト削減や運用の柔軟性といった利点がある一方で、デメリットや注意点も少なくありません。

登録支援機関に委託するよりも、外国人材の受入れから生活支援、行政手続きの全てを企業自身が行うため、支援担当者の業務量が大幅に増加し、他業務との兼務が困難となる点が最も顕著です。

自社支援における主なデメリットは以下の通りです。

  • 専門知識の習得と維持:
    出入国管理及び難民認定法(入管法)、労働基準法、社会保険など多岐にわたる専門知識の正確な理解と運用が不可欠です。
    継続的な学習に加え、外部専門家への相談費用や担当者育成の時間的・金銭的コストも発生します。
  • 行政手続きの複雑さと厳格な管理体制:
    支援計画作成、定期報告、在留資格更新申請など、入管庁への多岐にわたる提出書類には専門知識と細やかな注意が必要です。
    書類不備は審査遅延や在留資格不許可のリスクを招くため、常に最新法令に基づく厳格な書類管理体制の構築が求められます。
  • 予期せぬトラブルへの対応:
    外国人材の病気、事故、近隣トラブル、人間関係の悩みなど、生活上の問題が発生した場合、企業が直接対応しなければなりません。
    言語や文化の壁がある中、迅速な解決は容易でなく、担当者の精神的負担や専門機関との連携も必要です。

これらのデメリットを十分に理解し、自社のリソースや体制と照らし合わせ、自社支援が本当に最適かどうかを慎重に判断することが重要です。

特定技能の自社支援に必要な要件と体制構築

特定技能の自社支援を行うには、受入れ機関自体が国が定める支援体制の要件を満たすことが不可欠です。

本セクションでは、企業がクリアすべき「特定技能 自社支援の要件」として、支援責任者の選任、支援計画の作成、必要書類の準備・管理といったポイントを解説します。

自社支援の要件と支援責任者の選任

自社支援を行う企業は、外部の登録支援機関に委託する場合と異なり、自社のみで支援を適正に実施できる体制があることを証明しなければなりません。

これらの要件は、企業の信頼性、支援能力、そして外国人材の安定した生活と就労を保障することを目的としています。

企業には以下の基本的な要件が求められます。

  • 法令遵守(労働・社保・租税・入管法等)および欠格事由の非該当: 労働・社会保険・租税に関する法令を遵守していること、および過去5年以内に出入国管理及び難民認定法や労働基準法等に重大な違反がなく、欠格事由に該当しないことが必須です。
  • 適切な支援体制の確保: 支援責任者および支援担当者の選任、相談体制の整備など、特定技能外国人材に対する支援を確実に実施できる組織体制が整っていることが求められます。

特に重要なのが「支援責任者」および「支援担当者」の選任です。

これらは企業の役職員の中から選任する必要があります。

支援責任者支援計画の作成や実施状況の管理など、役職員の中から支援業務を統括できる者(支援担当者との兼任も可能です)。
支援担当者実際に特定技能外国人の支援(送迎や同行、相談対応など)を行う職員。

また、自社支援を行うためには「過去2年以内に中長期在留外国人の受入れ・管理の実績があること」または「生活相談業務に従事した経験を有する職員を選任していること」等の基準(支援体制等の基準)を満たす必要があります。

外国人材との円滑なコミュニケーションを確保するためには、支援担当者自身が外国人材の母国語を理解できるか、または専門の通訳者を確保できる体制が必要です。

これらの要件を満たせない場合は、原則として自社支援は認められず、登録支援機関への委託が必要となります。

支援計画の作成と実施体制の確保

特定技能1号外国人材の受け入れにおいて、「1号特定技能外国人支援計画」の策定は最も重要な準備です。

外国人材が日本での生活・就労に円滑に適応し、安心して働ける環境を提供するためのロードマップであり、入管庁への提出が義務付けられています。

支援計画には、以下の多岐にわたる項目を盛り込みます。

生活オリエンテーション法令、公的機関届出、医療、交通、金融、防災、緊急時対応など、日常生活情報の提供。
住居の確保と契約支援住居確保支援、賃貸契約助言、保証人探し補助。
日本語学習機会の提供日本語教室案内・受講機会、教材提供などによる日本語能力向上支援。
相談・苦情への対応 職場・生活の悩み・相談・苦情に対し、理解できる言語での対応、適切な助言・解決策提供。
日本人との交流促進地域住民との交流機会設定、日本社会への適応支援。
転職支援(非自責の場合)外国人材の責によらない契約解除時の次就職先探し支援。

計画実行には、社内での確固たる実施体制が不可欠です。

支援業務の効率化には、「特定技能管理システム」やデジタルツールの導入が有効です。

個人情報、在留資格、支援履歴、相談内容の一元管理システムを活用することで、業務負担軽減と質の高い支援を実現します。

必要書類の準備と管理のポイント

特定技能外国人の自社支援を前提とした申請を進めるためには、正確かつ網羅的な書類準備と適切な管理が不可欠です。

これらの書類は、在留資格の申請・更新、さらには日々の支援活動の適正性を証明する上で極めて重要な役割を果たします。

主に準備が必要となる書類(自社支援の場合)は以下の通りです。

支援計画書外国人材に対する具体的な支援内容、実施時期、担当者を明記。
支援責任者・担当者の履歴書支援を行う能力や経験を証明するもの。
支援体制に関する誓約書受入れ企業が法令を遵守し、適正な支援を行う体制があることを誓約。
履歴事項全部証明書・決算報告書企業の法人登記情報および財政状況の証明。
労働保険・社会保険の加入状況がわかる書類 適切な雇用環境を示す。
特定技能外国人材の雇用契約書雇用条件や業務内容を明記。

特に、外部委託せずに自社で行う場合、企業自体が「支援を行う能力・体制があるか」が入管の審査ポイントとなります。

運用開始後も、支援実施記録(相談記録や定期面談の記録)を適切に作成・保管する必要があります。

これらは定期届出や入管庁からの実地調査の際に提示を求められる重要な証拠となります。

特定技能の自社支援手続きの流れ:準備から入管申請、運用まで

特定技能の自社支援は、まず自社が「支援体制の要件」を満たしているか確認・整備し、次に外国人材の「在留資格申請(入管申請)」を経て、最後に実際の「運用」を開始する一連の流れで進められます。

支援体制の確認と準備

自社支援を行うためには、まず自社が支援を実施するための基準(支援体制)を満たしているかを確認します。

登録支援機関としての登録は不要ですが、同等の支援能力が求められます。

確認・準備すべき主な事項は以下の通りです。

法令違反の有無の確認労働法令等の違反がないこと。
支援責任者・担当者の選任役職員の中から適切な人物を選任。
支援実績または能力の確認過去に外国人の受入れ実績があるか、または生活相談業務経験者等の配置が可能か。
支援計画の策定入管法に基づく義務的な支援内容を含む具体的な計画の作成。

スムーズな申請のためには、事前の準備と計画が不可欠です。

要件を正確に理解し、書類を漏れなく正確に作成することが重要です。

在留資格申請(入管申請)の具体的な流れ

体制が整ったら、地方出入国在留管理局へ在留資格の申請を行います。

自社支援の場合、申請書類の中で「支援委託に係る書類」は不要ですが、代わりに「受入れ機関自らが支援を実施する能力・体制を証明する書類」の提出が必要です。

具体的な申請の流れは以下の通りです。

必要書類の収集・作成雇用契約書、支援計画書に加え、自社の支援体制を示す書類(支援責任者の履歴書等)を準備します。
特に支援計画書の内容は、実行可能性が厳しく審査されます。
入管への提出準備した全書類を、管轄の地方出入国在留管理局へ提出します。
審査期間申請受理後、数週間〜数か月を要します(案件・時期により変動)。
結果通知審査完了後、在留資格認定証明書が交付(または変更許可)されます。

審査では、支援計画書の内容が重視されます。

単なる形式だけでなく、住居確保、生活オリエンテーション、日本語学習支援、相談対応など、外国人材が安心して生活・就労できる具体的かつ実行可能な支援内容の詳細な記述が必要です。

特定技能の自社支援に関するよくある質問(FAQ)

特定技能の自社支援には、コスト削減などのメリットがある一方、多くの企業様が疑問や不安を抱えています。このセクションでは、自社支援を検討する際に寄せられる主な質問に対し、Q&A形式で解説します。

登録支援機関からの自社支援への切り替えは可能?

はい、可能です。特定技能外国人の支援を、登録支援機関への委託から自社支援へ切り替えることができます。

ただし、そのためには企業が支援体制の要件を満たしていることが前提となります。

切り替えを検討する際の主なメリットとデメリットは以下の通りです。

メリット支援委託費用が不要となり、長期的なコスト削減に繋がります。
また、支援内容・方法を自社ニーズに合わせ、柔軟に調整できます。
デメリット支援体制構築・維持のための初期投資や業務負担が増加します。
入管法等の知識習得、支援責任者等の配置が必須です。

具体的な切り替え手続きは以下の流れになります。

1. 自社体制の整備:
支援責任者・担当者を選任し、支援体制の基準を満たす状態にします。

2. 支援計画の再策定:
登録支援機関が作成していた計画に代わり、自社で実施するための新しい支援計画書を作成します。

3. 入管への変更届出:
支援委託契約の終了と、新たな支援計画に基づく自社支援の開始について、管轄の入管局へ「支援計画変更に係る届出」等の必要な届出を行います。

「特定技能 登録支援機関なし」で運用するには、法的要件の継続的な遵守と適切な支援体制の維持が極めて重要です。

自社支援はどんな企業にもおすすめですか?

特定技能の自社支援は、企業の規模、保有するリソース(人的・時間的・専門知識)、および外国人材雇用への経験によって適否が大きく異なり、すべての企業に適しているわけではありません。

具体的には、以下のような特徴を持つ企業には、自社支援がメリットをもたらしやすいでしょう。

  • 十分なリソースと体制を確保できる企業(外国人材の支援に専任担当者を配置できる、または既存部署で対応可能な人的余裕がある場合)。
  • 入管法、労働法、外国人材の生活支援に関する専門知識を持つ人材が社内にいる、または育成体制がある企業。
  • 外国人材の雇用経験が豊富で、トラブル対応や生活支援のノウハウが蓄積され、管理体制が確立されている企業。

一方で、リソースが限られる中小企業や、初めて外国人材を雇用する場合などは、登録支援機関への委託がリスク軽減の観点から推奨される場合もあります。

自社支援の選択は、現状のリソースとリスク許容度を総合的に考慮し判断すべきです。

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