外国人労働者の「日本離れ」は本当か?最新データで読み解く現実と企業がとるべき対策

「円安で日本の魅力が落ちた」「ベトナム人が来なくなる」――ニュースや業界の勉強会で、こうした声を耳にする機会が増えました。外国人労働者の「日本離れ」というフレーズは、いまや人事・総務担当者にとって無視できないキーワードになりつつあります。

一方で、厚生労働省が2026年1月に公表した最新の届出状況では、2025年10月末時点の外国人労働者数が約257万人に達し、過去最多を更新しています。総数だけ見れば「離れている」とは言い難い状況です。

では、現場で感じる”肌感覚”と統計上の数字のギャップはどこから来るのでしょうか。本記事では、厚生労働省や出入国在留管理庁の一次データ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの国際比較レポートなどを基に、外国人労働者の日本離れの実態を多角的に検証します。さらに、国籍構成の変化が示すリスク、韓国・台湾との人材獲得競争、そして2027年4月に施行される育成就労制度を踏まえ、企業が今から着手すべき具体策を整理します。

「日本離れ」の真偽をデータで検証する

外国人労働者の日本離れが語られるとき、最初に確認すべきは公的統計です。厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、2025年10月末時点で日本国内の外国人労働者数は257万1,037人となり、届出が義務化された2007年以降、過去最多を記録しました。前年比では約26万8,000人の増加で、増加率は11.7%です。3年連続で2桁台の伸びが続いており、マクロの数字だけを見れば「離れている」とは到底言えません。

外国人を雇用する事業所数も約37万1,000所に増え、前年比8.5%の伸びを示しています。大企業だけでなく、従業員99人以下の中小企業で就労する外国人が全体の56%を占めるというデータもあり、外国人材の活用はもはや特定の大手企業だけの話ではなくなっています。

在留資格別に見ると、「専門的・技術的分野の在留資格」が約86万5,000人で最も多く、前年比20.4%増と大幅に伸びています。中でも特定技能は前年比で大幅に増加しており、制度開始からわずか数年で主要な在留資格の一角を占める存在に成長しました。また、技能実習も約49万9,000人と依然として大きな割合を占めています。

産業別では、製造業が約59万8,000人で最多ですが、前年比で最も高い伸び率を示したのは医療・福祉(28.1%増)と建設業(22.7%増)です。介護施設や建設現場といった慢性的な人手不足業種において、外国人材への依存度が急速に高まっていることがわかります。全雇用者に占める外国人労働者の割合は約4%に達し、「29人に1人が外国人」という時代に突入しています。

このように全体の「量」は確実に増えているにもかかわらず、なぜ日本離れが語られるのか。その答えは、次に見る国籍構成の変化と、見えにくい「質」の変動にあります。

国籍構成の変化が示す”静かなリスク”

ベトナムの伸び悩みと新興国の台頭

外国人労働者の日本離れを最も端的に表しているのが、送り出し国の構成変化です。2025年10月末時点の国籍別データを見ると、1位はベトナムで約60万5,900人ですが、増加率は6.1%にとどまっています。これに対し、ミャンマーは42.5%、インドネシアは34.6%、スリランカは28.9%、ネパールは25.7%と、新興送り出し国が軒並み高い伸びを示しました。

ベトナムの伸び鈍化には複数の要因があります。まず、ベトナム国内の賃金水準が急速に上昇していることで、技能実習の給与水準では魅力を感じにくくなっています。加えて、ベトナム人材は技能実習よりも待遇の良い「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を志向する傾向が強まっており、在留資格の構成自体がシフトしつつあります。

国籍労働者数(2025年10月末)全体に占める割合前年比増加率
ベトナム約605,900人23.6%6.1%
中国約431,900人16.8%
フィリピン約260,800人10.1%
ミャンマー42.5%
インドネシア34.6%
スリランカ28.9%
ネパール25.7%

この表が意味するのは、日本の外国人労働者市場が「ベトナム一極集中」から「多国籍化」へ確実にシフトしているということです。これまでベトナム人材を中心に採用してきた企業が同じ手法で同じ規模の採用を続けられる保証はありません。

実際にベトナムでは国内経済の成長に伴い、ITエンジニアや製造業の管理職など、自国内でもキャリアアップの選択肢が広がっています。そのため「わざわざ日本に行って技能実習で働く」という選択の優先度が下がりつつあるのです。一方、ミャンマーからの急増には同国の政情不安という背景があり、政治情勢が安定すれば送り出し数が鈍化するリスクも念頭に置く必要があります。企業は特定国への依存度を下げ、複数の送り出し国からバランスよく採用できる体制を整えておくことが肝要です。

中国人労働者の構造変化

中国は約43万1,900人で2位を維持していますが、留学生の減少が続いている点には注意が必要です。従来、日本の中国人労働者は留学を経て就職するルートが主流でした。しかし中国の経済発展に伴い、わざわざ日本に留学するメリットが薄れ、留学からの就職パイプラインが細くなりつつあります。代わりに、技術・人文知識・国際業務での専門人材が増えており、高度人材の獲得においても国際競争が強まっている状況です。

円安と賃金格差がもたらす「選ばれない日本」リスク

外国人労働者が就労先を選ぶ際に最も重視する要素の一つが、母国への送金額(仕送り)です。ここで大きな影響を及ぼしているのが、近年続く歴史的な円安です。

マイナビグローバルが2025年に実施した在留外国人への調査によると、日本での就労を継続したいと考える外国人は92.3%と依然として高い水準にあります。しかし、「日本で働きたくない」と回答した人の理由を見ると、「円安」が35.5%でトップ、「給料が低い」が26.3%で続きました。さらに「他国の方が稼げるから」という回答は前年から8.4ポイント増の10.5%に急伸しています。

仮に月収25万円の労働者が母国に送金する場合、為替レートが1ドル=120円だった時期には約2,080ドル相当の価値がありましたが、1ドル=150円の水準では約1,670ドルと約20%も目減りする計算になります。仕送りを主な目的とする技能実習生やその家族にとって、この差は深刻です。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、2024年の低・中熟練外国人労働者の平均月給は、日本の特定技能が24.8万円、技能実習が21.5万円であるのに対し、韓国の低熟練労働者は29.3万円と日本を上回っています。韓国の中熟練労働者はさらに高い32.2万円です。さらに、2025年4月時点の1人あたりGDPでは韓国、台湾、日本の順となっており、かつて圧倒的だった日本の経済的優位性はほぼ消滅しています。

円安が即座に人材流出を引き起こしているわけではありませんが、為替が採用コスト・採用力の両面に影響を与えていることは見逃せません。外国人労働者が日本を選ぶ理由として「治安の良さ」「医療・社会保険制度の充実」「技術力の高さ」は依然として大きな魅力です。しかし、こうした「非金銭的メリット」だけで韓国や台湾との賃金差をカバーできるかは、人材のバックグラウンドや家族状況によって異なります。

企業としては、為替変動に左右されにくい定着戦略を構築することが、中長期的な人材確保の鍵になります。具体的には、住居費の企業負担や家賃補助の充実、通信環境の整備、日本語教育の機会提供、キャリアアップの見える化といった「手取り額+生活の質」で勝負する姿勢が求められます。円安は企業にとって外国人労働者の採用コストが相対的に下がるという側面もあるため、このタイミングで受入れ体制に投資する判断は合理的ともいえるでしょう。

韓国・台湾との人材獲得競争の激化

韓国の積極的な受け入れ拡大策

外国人労働者の日本離れを語る際に欠かせないのが、韓国と台湾の動向です。両国は日本と同様に少子高齢化に直面しており、外国人労働者の受け入れを急速に拡大しています。

韓国は「雇用許可制(E-9)」を柱とする受け入れ制度を持ち、近年その上限枠を大幅に引き上げてきました。2024年には過去最大の16.5万人を上限として設定し、対象業種も製造業・建設業からサービス業にまで広げています。2025年は上限を13万人に引き下げたものの、これは過去3番目の多さです。

さらに注目すべきは、韓国の中熟練外国人労働者向け施策です。一定の実績を満たした外国人に在留期限のない「熟練技能人材ビザ(E-7-4)」への変更を認め、永住申請や家族の呼び寄せも可能にしています。2026年末までは韓国語能力要件を緩和する特例措置も実施されており、定住・定着を前提とした政策にシフトしていることがわかります。

台湾も受け入れ拡大と定着促進へ

台湾もまた、2023年以降に低熟練外国人労働者の受け入れ制度を拡充しています。製造業の受け入れ枠拡大や、建設業・林業への新規受け入れ解禁が進みました。中熟練外国人労働者については、2022年に導入された「移工留才久用方案」に基づき、長期在留を許可する制度を運用中です。2030年までに8万人の中熟練外国人労働者を受け入れる目標を掲げ、着実に実績を積み上げています。

比較項目日本韓国台湾
低熟練外国人の平均月給21.5万円(技能実習)29.3万円継続的に上昇傾向
特定技能/中熟練の平均月給24.8万円(特定技能)32.2万円
永住・長期定住への道筋特定技能2号→永住可能E-7-4で事実上の永住可移工留才久用方案で長期在留可
家族帯同特定技能2号で可能E-7-4で可能中熟練ビザで可能

日本、韓国、台湾の3カ国・地域が同じ東南アジアの人材プールを奪い合う構図は今後ますます鮮明になるでしょう。特に韓国は政府主導で送り出し国に育成施設まで設ける積極策を展開しており、日本企業が個別に対応するだけでは太刀打ちしにくい状況です。

ただし、日本にも強みはあります。生活の安全性、公共交通の利便性、社会保険制度の手厚さ、そして何より「日本語」という資産です。東南アジアではJLPT(日本語能力試験)の受験者数が近年急増しており、2024年7月の合格者数は約27万人と2022年の約1.5倍に伸びています。日本語学習者の「日本で働きたい」という潜在的な希望は依然として大きいのです。企業は「日本に来てくれるはず」という前提を捨てつつも、日本ならではの魅力を具体的に発信し、自社で働くことのメリットを明確に打ち出す必要があります。

2027年「育成就労制度」で何が変わるのか

技能実習から育成就労への制度転換

2024年6月に公布された改正入管法により、技能実習制度は発展的に解消され、2027年4月1日から新たに「育成就労制度」が施行されます。制度移行には3年間の経過措置が設けられ、2030年頃までに完全移行となる見込みです。

この制度変更は単なる名称変更ではなく、制度の目的そのものが「国際貢献としての技能移転」から「日本の人材確保と育成」へと大きく転換する画期的なものです。

育成就労制度の主な特徴は以下の通りです。

  • 在留期間は原則3年間で、特定技能1号の水準に達するまで育成することを目標とする
  • 一定の条件を満たせば、本人の意向による転籍(転職)が認められる
  • 育成就労→特定技能1号(最長5年)→特定技能2号(在留期限なし・家族帯同可能)というキャリアパスが明確に設計されている
  • 入国前にA1相当以上の日本語能力が必要で、就労1年後にはさらに上の水準が求められる

企業にとっての影響と準備すべきこと

育成就労制度の導入は、外国人材を受け入れる企業にとってチャンスであると同時に、準備不足の企業には大きなリスクとなります。

最も注意すべきは「転籍要件の緩和」です。技能実習制度では原則として受け入れ先の変更ができませんでしたが、育成就労制度では同一業務分野内で1〜2年以上勤務し、一定の技能・日本語要件を満たせば転籍が可能になります。これは労働者の権利保護という点では大きな前進ですが、企業にとっては育成コストをかけた人材が他社に流出するリスクを意味します。

対策として企業が今から取り組むべきことは明確です。まず、外国人材が「この会社で働き続けたい」と思える職場環境を整備すること。具体的には、日本語教育支援、住居・通信・金融といった生活基盤のサポート、スキルアップの機会提供、そしてキャリアパスの見える化が挙げられます。

また、2027年以降は対象職種が特定技能制度と原則一致するため、技能実習では受け入れ可能だったが育成就労では対象外となる職種が出てきます。自社の業種が対象に含まれるか、早い段階で確認しておくことが重要です。

企業が「選ばれる側」になるためにできること

処遇改善と生活支援の両輪で定着率を上げる

外国人労働者の日本離れを防ぎ、自社の人材を安定的に確保するには、給与面の改善だけでは不十分です。厚生労働省「令和6年外国人雇用実態調査」によれば、外国人労働者の雇用に関する課題として最も多く挙げられたのは「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」(43.9%)であり、次いで「在留資格申請等の事務負担が面倒・煩雑」(24.7%)、「在留資格によっては在留期間の上限がある」(21.5%)が続いています。

つまり、賃金を上げること以上に、言語の壁を乗り越えるための日本語教育支援、複雑な行政手続きの代行・支援、そして安心して暮らせる住環境の整備が、定着率の向上に直結するのです。

特に住まいの確保は外国人材にとって最大のハードルの一つです。連帯保証人の問題、言葉の壁による不動産契約のトラブル、来日直後の生活セットアップなど、企業が直接対応するには負担が大きい領域です。

多国籍化に対応した採用チャネルの分散

ベトナム一極集中からの脱却は、もはや待ったなしの課題です。インドネシア、ミャンマー、ネパール、スリランカなど、今後伸びが見込まれる国のネットワークを持つ採用チャネルの開拓が必要になります。

各国の文化・宗教的背景への理解も重要です。たとえばインドネシアはムスリム人口が多く、礼拝スペースの確保やハラール対応が求められる場合があります。ミャンマーやネパールからの人材はまだ日本語教育インフラが整っていない場合もあるため、来日後の語学研修体制を手厚くする必要があるでしょう。

社内体制の整備と経営層の理解

外国人材の受け入れを成功させるには、現場任せにせず、経営レベルで方針を定めることが不可欠です。経団連も2025年12月に公表した提言「転換期における外国人政策のあり方」の中で、外国人が日本の経済社会を支える一員となっている現実を指摘し、質と人数の両面でのコントロールを求めています。

社内説明の際には、厚生労働省の統計データ(外国人労働者数の推移、在留資格別構成、産業別データ)を活用することで、上長や法務・コンプライアンス部門への説得力が増します。「なんとなく増えている」ではなく、数字に基づいた採用計画と定着戦略を示すことが、組織としての意思決定を後押しします。

よくある質問

Q1. 外国人労働者の「日本離れ」は本当に起きているのですか?

統計上、外国人労働者の総数は2025年10月末時点で約257万人と過去最多を更新しており、マクロで見れば日本離れが起きているとは言い切れません。ただし、ベトナムの伸び率鈍化、円安による送金価値の低下、韓国・台湾との賃金競争の激化など、中長期的に人材確保が難しくなるリスクは確実に高まっています。「今は大丈夫」でも「5年後も同じ」とは限らない点に注意が必要です。

Q2. 外国人労働者の出身国はどう変化していますか?

最も多いのはベトナム(約60万5,900人、全体の23.6%)ですが、増加率は6.1%に鈍化しています。代わりに伸びが顕著なのがミャンマー(42.5%増)、インドネシア(34.6%増)、スリランカ(28.9%増)、ネパール(25.7%増)です。ベトナム一極集中から多国籍化へのシフトが進んでおり、採用チャネルの分散が企業に求められています。

Q3. 韓国や台湾と比べて日本の条件はどうですか?

三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートによると、低・中熟練外国人労働者の平均月給は韓国が最も高く、日本の特定技能(24.8万円)を上回る29.3万円です。さらに1人あたりGDPでも韓国、台湾が日本を上回っており、経済面での優位性はほぼなくなっています。ただし、治安の良さや社会インフラの充実度は依然として日本の強みであり、生活環境のトータルな魅力を訴求することがポイントです。

Q4. 育成就労制度はいつから始まりますか?

2027年4月1日に施行されます。技能実習制度は発展的に解消され、3年間の経過措置を経て2030年頃に完全移行する予定です。新制度では転籍が条件付きで認められるため、企業は定着率向上のための取り組みを今から始める必要があります。

Q5. 中小企業でも外国人材の定着支援はできますか?

自社だけで住居手配、行政手続き、日本語教育、メンタルケアまで対応するのは確かに負担が大きいです。しかし、外国人材の生活支援を専門に行うサービスを活用すれば、限られたリソースでも充実した定着支援が可能です。

Q6. 将来的に外国人労働者が来なくなるリスクはありますか?

総数が急に減少する可能性は低いものの、構造的なリスクは複数あります。東南アジア諸国の経済成長に伴う賃金上昇、韓国・台湾の受け入れ拡大、円安の継続、そして送り出し国側の少子化進行です。特にベトナムは合計特殊出生率が低下傾向にあり、将来的に送り出し余力が縮小する可能性があります。「来てくれることが前提」の採用戦略ではなく、「選ばれるための投資」を行う企業だけが、安定的な人材確保を実現できるでしょう。

参考文献

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