入管法改正がクルド人に与える影響とは?採用はリスク?最新情勢を解説

2023年6月に成立した改正入管法は、日本に暮らすクルド人コミュニティに大きな影響を与えています。

本記事では、この法改正が彼らの生活にどう影響し、企業がクルド人を雇用する際にどのようなリスクや注意点があるのかを、最新の情勢と日本におけるクルド人問題の背景を踏まえながら詳しく解説します。

入管法改正の基本とクルド人への影響

2023年6月に成立した改正入管法は、2024年6月10日から施行され、日本に滞在する外国人、特にクルド人コミュニティに大きな影響を与えています。

この法改正は、日本の出入国在留管理制度における長年の課題を解決し、保護すべき者を確実に保護しつつ、在留が認められない外国人は速やかに退去させることを目的としています。

改正入管法の主要ポイントと変更点

今回の改正入管法の主要な変更点の一つは、難民申請中の強制送還を一律に停止する「送還停止効」に例外規定が設けられたことです。

これまでの制度では、難民申請中は回数や理由を問わず強制送還が停止されていました。

しかし改正後は、難民認定申請を3回以上行った者については、原則として送還停止効が適用されず、強制送還の対象となり得ます。

3回目以降の申請者であっても、難民や補完的保護対象者として認定すべき「相当の理由がある資料」を提出した場合は例外的に送還が停止されますが、その基準の透明性については議論が続いています。

また、退去強制令書が発布された外国人の収容・送還に関する制度も変更されました。

長期収容問題の解消を目指し、新たに「監理措置制度」が導入されています。

これは、親族や支援者など「監理人」が監督することを条件に、収容施設外での生活を認めながら退去強制手続きを進める制度です。

この改正は、「人道的配慮」よりも「適正な在留管理」を重視し、難民申請者の送還促進を打ち出す側面があります。

故郷での迫害を逃れてきたクルド人にとっては、在留資格がいっそう不安定化し、強制送還のリスクが増大することを意味しています。

クルド人が直面する新たなリスクと課題

改正入管法の施行により、日本に滞在するクルド人難民申請者は、これまで以上に厳しい状況に直面しています。

主なリスクは以下の通りです。

  • 強制送還の可能性増大: 難民申請を3回以上行った場合(原則、ただし相当の理由資料があれば例外)、送還停止効が適用されなくなり、自身の命や身体に危険が及ぶ恐れがある母国へ送還される不安が常に付きまといます。
  • 生活基盤の不安定化: 在留資格が不安定な状態が続くため、日本での長期滞在が困難になります。これにより、就労制限による安定収入の欠如、医療機関へのアクセス困難、社会的孤立のリスク増大といった深刻な問題が生じています。
  • 心理的負担の著しい増大: いつ強制送還されるか分からないという精神的なプレッシャーは計り知れず、将来への不安から心身の健康を損なう人も少なくありません。

国際社会からの視点と日本の対応

改正入管法に対し、国際社会や人権団体からは懸念の声が上がっています。

特に、難民申請を3回以上行った者への送還停止効例外規定については、迫害を受ける恐れのある国への送還を禁じる「ノン・ルフールマン原則」との整合性が問われています。

日本の難民認定は件数として少数にとどまっており、政府資料では令和6年(2024年)の難民認定申請者数は12,373人、難民認定者数は190人とされています。

トルコ国籍のクルド人に関しては、他国では難民認定されるケースが多い一方で、日本では認定が非常に難しい現状があります。

これに対し、国際機関や人権団体等からは、難民保護や送還のあり方に関して様々な懸念が示されています。

クルド人を取り巻く現状と難民申請の実態

日本に滞在するクルド人の多くは、トルコなど故郷での深刻な迫害から逃れてきた人々です。

クルド人は「国を持たない最大の民族」と呼ばれ、居住する各国で様々な困難に直面してきました。

クルド人の背景と日本への難民申請

トルコと日本の間には短期滞在に関する査証(ビザ)免除措置があるため、トルコ国籍のクルド人は「短期滞在(査証免除を含む)」で日本に入国し、その後難民申請を行うケースが見られます。

しかし、日本の難民認定制度では、生命や自由が直接的に危険にさらされる具体的な証拠が高いレベルで求められます。

迫害の証明が困難なクルド人は「経済移民」とみなされることも多く、難民として認定されるケースは極めて稀です。

強制送還の現状と事例

改正入管法の施行後、長期にわたり日本に滞在していたクルド人の強制送還事例も報告されるようになりました。

報道によれば、2025年7月8日、埼玉県川口市で長期間暮らしていたクルド人男性が、難民申請中であったにもかかわらずトルコへ強制送還されました。

この事例は、改正法が送還停止効の例外規定を厳格に適用する姿勢を示すものとして、コミュニティに大きな衝撃を与えました。

これにより、仮放免状態で滞在している他のクルド人にも送還への不安が広がり、自ら帰国を選ぶ家族も増えていると報じられています。

難民申請の審査プロセスと認定率の課題

日本における難民申請の審査プロセスは平均で約3年かかるとされ、その間、申請者は仮放免などの不安定な立場で生活を余儀なくされます。

審査期間中は就労や公的医療保険への加入が制限されることが多く、経済的・精神的に厳しい状況に置かれます。

難民申請が不認定となった場合でも制度上は再申請が可能ですが、前述の通り改正入管法により3回目以降の申請は強制送還の対象となる可能性が高まりました。

これにより、再申請を繰り返すことで長期滞在を維持することは著しく困難になっています。

クルド人の日本での生活と直面する問題

日本に暮らすクルド人の多くは、不安定な在留資格という根本的な問題に直面しています。

難民申請中や仮放免の状態にある彼らは、就労、医療、教育、居住といった基本的な生活面で大きな制約を受けています。

不安定な在留資格による生活上の制約

正規の就労が認められない場合、経済的に困窮しやすく、生活のために不法就労のリスクを負うことがあります。

また、国民健康保険への加入が困難なため、高額な医療費が生活を圧迫するケースも少なくありません。

子どもたちの教育機会も不安定になりがちです。在留資格の状況によっては、進学や奨学金の利用が制限されることがあります。

また、(仮放免などの場合)在留上の条件として居住地や移動が制限され、遠方への移動に許可が必要となる場合があります。

住民票がない等の事情で行政サービスを受けにくいケースもあり、これらが社会的な孤立を深める要因となっています。

報道される問題行動と社会の認識

埼玉県川口市や蕨市など、クルド人が多く居住する地域では、一部のクルド人に関連する問題行動(騒音、ゴミ出し、運転マナー、改造車による騒音や事故など)がメディアで報じられ、社会的な議論を呼んでいます。

2023年には病院周辺でのトラブルなども報じられ、これらがSNS等で拡散されたことで、地域住民との軋轢や、排外的な言説の増加に繋がっている側面があります。

一方で、埼玉県警は特定の国籍によって犯罪情勢が悪化しているとの評価はしていないとし、刑法犯認知件数も減少傾向にあります。

個別の問題行動とコミュニティ全体を安易に同一視せず、客観的な事実に基づいた冷静な判断が求められています。

企業がクルド人を雇用する際のリスクと注意点

企業が外国人を雇用する際、特に在留資格が不安定なクルド人のケースでは、入管法に関する正確な知識と慎重な対応が不可欠です。

適切な手続きを怠ると、企業は「不法就労助長罪」に問われるリスクがあります。

在留資格と不法就労助長罪のリスク

日本の入管法は、外国人を雇用する企業に対し、その外国人が就労可能な在留資格を有するか確認することを義務付けています。

この確認を怠り、不法に就労する外国人を雇用した場合、企業は「不法就労助長罪」に問われる可能性があります。

不法就労助長罪の罰則は、現行では「3年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科可)」です。

なお、2027年4月1日施行の改正で、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科可)へ引き上げられる予定です。

特にクルド人には、難民申請中や「仮放免」の状態で滞在するケースが多く見られます。

仮放免中の外国人は原則として就労が認められていないため、雇用することは極めて高い法的リスクを伴います。

企業は雇用前に必ず在留カード等の提示を求め、在留資格の種類、有効期間、「就労制限の有無」を徹底的に確認しなければなりません。

雇用後のトラブル事例と適切な対応策

適法に雇用できる場合であっても、文化・習慣の違いや言語の壁、在留資格の変動などによるトラブルに備える必要があります。

  • 文化・習慣の違い: 時間感覚や宗教的な配慮の違いから誤解が生じることがあります。
  • 言語の壁: 日本語の指示が正確に伝わらず、業務ミスや安全上のリスクにつながる可能性があります。
  • 在留資格の変動: 難民申請の結果や法改正の影響で、在留資格が変更・喪失し、就労継続が不可能になるリスクがあります。

これらのリスクを軽減するためには、以下の対策が有効です。

  • 在留資格の定期的な確認: 在留期間や就労制限の変更がないか、定期的に確認します。
  • 文化理解とコミュニケーション: 通訳の活用や「やさしい日本語」での指示、異文化理解のための社内研修を実施します。
  • 相談体制の整備: 従業員が安心して相談できる窓口を設置し、生活面などのサポートも検討します。

よくある質問 (FAQ)

クルド人はなぜ日本にいるのですか?

日本に滞在するクルド人の多くは、トルコ国籍を持つ人々です。

故郷での民族的な迫害や政治的な弾圧、不安定な情勢から逃れるため、比較的入国しやすい(査証免除措置がある)日本へ渡り、難民申請を行っています。

入管法改正後、クルド人の在留資格はどうなりますか?

改正入管法により、特に3回目以降の難民申請者に対する送還停止効の適用除外が導入されたことで、強制送還のリスクが高まっています。

また、退去強制令書発布後の「監理措置」制度の導入など、在留管理が厳格化されており、正規の在留資格を持たないクルド人にとっては、これまで以上に不安定な状況となっています。

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