素形材産業分野で「特定技能」外国人を採用する際の要件と注意点
2019年4月に在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」が新設されましたが、今回は「特定技能1号」の在留資格で外国人が従事可能な12の特定産業分野のうち、人材不足が深刻化している「素形材産業分野」に焦点を当てます。素形材産業分野で特定技能1号の外国人材を受け入れるために必要な試験や要件、企業側の注意点などを詳しく解説していきます。外国人材の活用を検討している事業者の方は、ぜひ参考にしてください。
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Contents
在留資格「特定技能」とは?
2019年4月に、深刻化する人手不足の解消を目的として、在留資格「特定技能」が新設されました。特定技能には、特定技能1号と特定技能2号の2種類があり、対象となる分野・業種は全部で12あります。
素形材産業分野では、特定技能1号と特定技能2号の両方で外国人材の受け入れが可能です。ただし、特定技能2号についてはまだ制度が始まったばかりで、具体的な運用の詳細が定まっていない部分もあるため、ここでは主に特定技能1号について解説していきます。
在留資格「特定技能」の概要については、以下の関連記事もぜひご覧ください。
▶︎ 在留資格「特定技能1号・2号」とは?「技能実習」の違いや雇用側の条件
特定技能1号「素形材産業」の要件は?
特定技能1号「素形材産業」の在留資格を取得するには、次の2つのルートがあります。
①試験に合格する
素形材産業分野の業務に必要な技能と日本語能力を有していることを、試験によって証明する必要があります。
②技能実習2号を良好に修了する
素形材産業分野の技能実習2号を修了し、所定の手続きを経ることで、特定技能1号への移行が可能です。技能と日本語の試験が免除されるメリットがあります。
特定技能1号「素形材産業」に必要な試験
特定技能1号「素形材産業」への移行を希望し、技能実習2号の修了要件を満たしていない方は、技能試験と日本語試験の2つの試験に合格する必要があります。それぞれの試験の概要は以下の通りです。
製造分野特定技能1号評価試験
製造分野特定技能1号評価試験は、素形材産業で必要とされる技能が身についているかを測る試験です。試験は、鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工など、希望する業務区分に応じて用意されています。
学科試験と実技試験の両方に合格する必要があり、基本的な知識と、業務に必要な一定の技能を有していることが求められます。
日本語能力試験
特定技能1号では、生活や業務に必要な日本語能力が求められます。日本語能力試験(JLPT)のN4以上に合格している必要があります。
N4は、基本的な日本語を理解し、簡単な会話ができるレベルです。漢字の読み書きは300字程度、語彙は1500語程度が目安とされています。
特定技能1号「素形材産業」で従事できる業務内容は?
特定技能1号「素形材産業」の外国人材は、素形材産業の製造現場で、一定の業務に従事することができます。以下で、主たる業務と関連業務について詳しく見ていきましょう。
1. 主たる業務
- 鋳造
指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、溶かした金属を型に流し込み製品を製造する作業に従事 - ダイカスト
指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により溶融金属を金型に注入して高い精度の鋳物を短時間で大量に生産する作業に従事 - 金属プレス加工
指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により金型を用いて金属材料にプレス機械で荷重を加えて曲げ、成形、絞り等を行い成形する作業に従事 - 工場板金
指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により各種工業製品に使われる金属薄板の加工・組立てを行う作業に従事 - 鍛造
指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により金属を打撃・加圧することで強度を高めたり、目的の形状にする作業に従事 - 塗装
指導者の指示を理解し、又は自らの判断により塗料を用いて被塗装物を塗膜で覆う作業に従事 - 電気機器組立て
指導者の指示を理解し、又は自らの判断により、電気機器や電子機器の組立てや部品の取付け、ハンダ付けなどを行う作業に従事 - 機械検査
指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により各種測定機器等を用いて機械部品の検査を行う作業に従事 - 機械保全
指導者の指示を理解し、又は自らの判断により工場の設備機械の故障や劣化を予防し、機械の正常な運転を維持し保全する作業に従事 - 工業包装
指導者の指示を理解し、又は自らの判断により、工業製品の出荷に向けて、製品の梱包や出荷作業、在庫管理などを行う作業に従事
主たる業務は上記のようになっています。これらの業務に従事するには、指導者の指示を理解したり、自らの判断で業務を遂行したりする力が必要とされます。
なお、従事する業務は、日本標準産業分類に掲げられている産業の製造等に係るものでなければなりません。例えば、「塗装」の業務区分で受け入れられた外国人が、自動車の車体塗装に従事することはできませんので注意が必要です。
参考:製造業における 特定技能外国人材の受入れについて (素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業)|経済産業省
2. 関連業務
上記1の主たる業務と併せて行うという前提で、関連業務に付随的に従事することもできます。
関連業務としては、例えば次のようなものが挙げられます。
- 原材料・部品の調達・搬送作業
- 各職種の前後工程作業、
- クレーン・フォークリフト等運転作業
- 清掃・保守管理作業
ただし、これらの関連業務は、あくまで主たる業務に付随して行うものです。関連業務のみを行うことは認められていませんので、注意しましょう。
「特定技能1号」外国人を雇用する受入企業の主な条件とは?
特定技能の外国人を受け入れる企業には、共通して求められる要件がいくつかあります。素形材産業分野の場合は、それに加えて、次のような条件を満たす必要があります。
受入企業は、日本標準産業分類に掲げられている産業のうち、以下のいずれかの産業を行っていること
- 2194 鋳型製造業(中子を含む)
- 225 鉄素形材製造業
- 235 非鉄金属素形材製造業
- 2422 機械刃物製造業
- 2424 作業工具製造業
- 2431 配管工事用附属品製造業(バルブ、コックを除く)
- 245 金属素形材製品製造業
- 2465 金属熱処理業
- 2469 その他金属表面処理業(ただし、アルミニウム陽極酸化処理業に限る。)
- 2534 工業窯炉製造業
- 2592 弁・同付属品製造業
- 2651 鋳造装置製造業
- 2691 金属用金型・同部分品・附属品製造業
- 2692 非金属用金型・同部分品・附属品製造業
- 2929 その他の産業用電気機械器具製造業(車両用、船舶用含む)
- 3295 工業用模型製造業
上記のいずれかの産業を営んでいる企業が、特定技能1号の外国人材を受け入れることができます。
「特定技能1号」外国人が従事する事業場において直近1年間で売上が発生していること
特定技能1号の外国人を受け入れるには、その外国人が実際に働く事業場において、直近1年間の売上実績が必要です。
直近1年間の売上には、加工賃収入額、くず廃物の売却額、その他の収入額の合計を指します。消費税や酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税なども含みます。
また、同一企業に属する他の事業所へ引き渡したもの、自家使用されたもの、委託販売に出されたものなども、売上の計算に含めます。
製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会の構成員であること
特定技能1号の外国人材を受け入れるには、経済産業省が組織する「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」への加入が必須です。
初めて特定技能1号の外国人を受け入れる場合は、当該外国人の入国後4ヶ月以内に「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」に加入し、必要な協力を行うことが求められます。出入国在留管理庁への在留諸申請の際には、その旨を誓約する「誓約書」の提出が必要となります。
万が一、入国後4ヶ月以内に加入をしなかった場合、特定技能1号の外国人を受け入れることはできず、その状態で就労させると不法就労助長罪に問われる可能性がありますので、くれぐれもご注意ください。
在留資格「特定技能」で外国人を雇用する際の注意点
在留資格「特定技能」によって外国人を雇用する際には、企業側がしっかりと理解しておくべき注意点がいくつかあります。
雇用形態はフルタイムの直接雇用のみ
特定技能1号の外国人材は、受入企業との間で直接雇用契約を結び、フルタイムで働く必要があります。労働者派遣による就労は一切認められていませんので注意しましょう。
万が一、特定技能の外国人を派遣したり、派遣された外国人を受け入れたりした場合、出入国在留管理庁から5年間の受入れ停止処分を受けることになります。
転職可能である
特定技能の外国人材は、転職が可能です。これは、技能実習制度とは大きく異なる点の1つです。
一度雇用した外国人材が、より良い条件を求めて転職する可能性があることを念頭に、魅力的で働きやすい環境を用意することが大切です。
報酬についても、日本人と同等以上の水準であることが求められています。単に人手不足を解消するための安価な労働力としてではなく、外国人材の力を借りて企業の生産性を向上させるという意識を持つことが重要でしょう。
まとめ
ここまで、在留資格「特定技能」の概要と、素形材産業分野で特定技能の外国人を雇用する際の要件や注意点などについて詳しく解説してきました。
特定技能は、深刻な人手不足に悩む企業にとって、貴重な戦力となり得る存在です。一方で、外国人材の受入れには、一定の責任も伴います。
試験に合格するなどの要件を満たした優秀な外国人材を適切に受入れ、日本人と同様の処遇で働いてもらうことが何より重要です。外国人材の力を有効に活用することで、企業の持続的な成長と、ひいては日本経済の発展にもつなげていければと思います。